カフェ・ブレイク
「……結局こうなるのね。」
苦笑しながらも、義人くんの首に両腕を回す。
心の中に穏やかな幸せが広がる。

「意地はらんでええのに。」
義人くんはそう言いながら、軽々と私を抱えて歩いた。
飛び石をひらひらと飛びながら、弾む足取りなのに、全く危なげなく力強かった。

「ね、妹さんがいらっしゃるなら、これ、恥ずかしいわ。玄関で下ろしてね。血だけふさいだら、すぐに帰るから。」
「その足で?運転するの?……うちの車で送ってもろたら?」

「……裸足で運転する。自力で帰る。」
泣きそう。
……てか、涙がにじんできた。

ぎょっとしたように義人くんが私を見た。
「何で泣いてるん?」

「……情けないから。こんなはずじゃなかったのに。」
朝からがんばってお着物を着て、豪邸と庭園とゴージャスな人たちに気後れしないように自らを律していたのに。

「夏子さん、ツンデレ……やばい。かわいすぎる。」
義人くんはそう言うと、ピタッと立ち止まった。
「夏子さん、運転、ほんまにできるか?」

「……うん。」
「ほな、行こか。」
そう言うなり、義人くんは方向転換した。

「どこ行くの?」
「駐車場。」

帰っていいの?
少しホッとして義人くんを見た。
「ありがとう。」

義人くんは苦笑してから、そっと顔を近づけた。
優しく唇と唇が触れた。

……キスされちゃった。

鼓動が、速くなる。
早く帰りたいのに……離れたくないかも。
このまま、義人くんに抱かれてたい。


「夏子さんの車、どれ?」
ズラッと並んだ車の中、私のトヨタ86はどの車よりも車高が低く見えた。

「あの赤い車。」
そう言って指さすと、義人くんは驚いたらしい。

「なんか、意外。夏子さん、やんちゃしてた?」
「いーえ。単にマニュアル車に乗りたかったの。」

そう言いながら、鍵をピッと開けた。
「ふぅん。クールでカッコイイ、とも言えるか。」

そう言いながら義人くんは、私を抱えたまましゃがんで、車のドアを開けた。
「このまま乗れる?」
「うん。ありがと。」
義人くんにサポートしてもらって、運転席に乗り込んだ。
唇が触れるだけのキスをもう一度してから、義人くんは運転席のドアを閉めた。

そのまま助手席に回って、車に乗り込んで来た。
「うわぁ……低ぅ。」
「何で乗ってるの?」

「何でって……駐車場から部屋まで、夏子さんを運んであげたいやん?」
「だって、園遊会、抜け出していいの?」
「いいんちゃう?」

義人くんはあっけらかんとそう言って、車内をキョロキョロ見渡していた。

……ま、いっか。
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