カフェ・ブレイク
その夜は、久しぶりに2人で飲んだ。
2人とも酒は強いほうなので、とっておきの美味い焼酎の原酒を開けた。
牧場の櫻 36度。

「薄めるなよ。」
一応、氷も準備したけれど、俺はストレートで味わってほしかった。
「……美味いな。」
小門は、ひと舐めしてそう言ってから、けっこうなペースでぐい飲みを空にした。

酔いたい気分にもなるよな、そりゃ。
俺は黙って、小門のぐい飲みを満たした。

「……何であんないい子に育ってるんだろうな。」
ポツリと小門がこぼした。

「頼之くんか。そりゃお前、真澄さんが育ててるんだから。ダメな子になりよーわけないわ。」
暗に玲子を貶めたつもりはなかったが、小門にはそう聞こえたらしい。
「なるほど。」
そう言って、額を抑えて俯いた。

泣いてるのかもしれない。
しばらくそっとしておいて、俺は俺で、極上の芋焼酎を堪能した。

「どこで失敗したんかな。俺は。」
ソファにゴロリと横になって、小門は呟いた。

……失敗と自覚してるんだな。

「真澄に惚れて玲子と別れたことが間違いだったと、無理やり思い込もうとしてたけど……頼之くんに逢ったら……自分を騙すことはできても、あの子の存在を否定することはできなくって……。」

そりゃそうだよ。
てか、そもそも、頼之くんに順当に会社を継がせるために小門が必要なんだろ?
「罪滅ぼしだと思って、会社を発展させて、頼之くんに引き渡してやれよ。」

「……」

小門が何を言ったのか、よく聞こえなかった。
いや、小門も俺の言葉を聞いてなかったのかもしれない。
静かになったので、顔を覗き込んだら、小門は眠っていた。

風邪引くぞ。
毛布と布団を出してきて、小門を覆う。
……こいつ、老けたよなあ。
苦労が顔に刻まれてるよ。

同い年なのに、俺とは背負ってるものが違い過ぎる。
家(別宅だけど)でも会社でも、求められてがんじがらめにされてるのに、小門本人は心の休まる場所もない。

しんどいよな……。
明日からの来店時には、もっと優しくしてやろう。
小門の寝顔にそう決意して、さらに1杯ちびちびと舐めてから眠った。


翌朝、目覚まし時計で無理やり起きた。
あったま、痛いわー!
酒が残ってるのを感じながら、シャワーを浴びる。
水音で小門も目覚めたらしい。

「おはよう。風呂入って来いよ?朝飯、食うだろ?」
「……ああ。ありがと。」

小門にバスタオルを渡して、キッチンへ。

適当にフルーツと野菜をミキサーに放り込んだジュースと、冷凍してあった食パンにチーズとハムを挟んでホットサンドを焼いた。
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