カフェ・ブレイク
「今、何時?」
バスタブにそーっと下ろしてもらって、お湯の心地よさに少しずつ感覚が戻ってくる。

「もうすぐ夜明け。寝直す時間はないかも。」
義人くんも一緒に入るんだ……お湯がもったいない……ざばざば溢れてく……

「俺、一旦帰って着替えてから登校するから。夜、また来るよ。」
そう言いながら、義人くんは私の腕をさすってくれた。

「……ダメ。そんな連日、無理。死んじゃう。」
本気でそう言ったんだけど、義人くんは吹き出した。
「もう!笑い事じゃない!」

「ほな、今日はHしない。俺、まだ夏子さんの手料理食べてへんもん。作って。」
義人くんは私の首筋をぐにぐにと優しくマッサージしながら、そうねだった。

「それぐらいはいいけど。何、食べたいの?」
「夏子さんの得意料理!」
「……特にない。何かリクエストちょうだい。」

うーん、と義人くんは首を傾げて考えた。
「じゃあ、今この部屋にあるもので。買い足し、なし。できる?」

……珍しいリクエスト……てか、それ、私を試してる?
義人くん、ちゃーんと要人(かなと)さんの喰えない部分、受け継いでるんだ。

「いいけど、たいしたもの、ないわよ。」
そう言いながら、備蓄食材を思い出す。
何とかなるかな。


まだ太陽が登る前に、義人くんはタクシーを呼んで帰っていった。
寝直す時間はなさそう。

洗ってもらった髪を乾かしながら、残り湯でシーツとベッドパッドを洗った。
いろんな分泌液でカペカペ。
……思い出して、身体がまた疼いた。
やだな。

章(あきら)さんのもとを出てから、ずっと忘れてたこの感覚。
自分の身体なのに、コントロールできない。

このままじゃ、どんどん好きになってしまう。
居心地よすぎる。

あんな風に優しくされたら……離れられなくなってしまう。
ダメだわ。
ことさらに、しっかりしなきゃ。
私が、距離を置くようにするべきよね。

……できるの?


「大瀬戸先生……彼氏できた?」
翌日、朝の挨拶をするなり、薬剤師の和田先生にそう聞かれてしまった。

「いません!……どうしてですか?」
心臓がバクバクしていたけれど、必死にとりつくろって聞いてみた。

和田先生は、少し目を細めてニヤリと笑った。
「ん~、女の勘?先週まで感じなかった、ほわほわオーラが出てる。心身ともに満たされた週末を送りました~、って顔に書いてある。」

……するどい。
確かに、昨日までとは違う気分ではあるが……

「ま、女がてっとり早く仲良くなるのは、コイバナと失恋の愚痴に付き合うことだから……いつでも遠慮なく相談してね。秘密厳守するから。」
ニッコリ笑って和田先生がそう仰った。

……今までの和田先生の口の軽さを考えると、とても話せないけど……
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