カフェ・ブレイク
てか、この日を境に義人くんに少し変化が生じた。
「どうせ俺は日陰の存在ですから。」
と、立場が逆だ!と、突っ込みたくなるような言葉を本気でこぼして拗ねだした。

……めんどくさい。
そりゃ12も年下の男の子だから、遅かれ早かれ、母親のように依存されるか、うっとおしがられるか、飽きられるか……長続きしないと思ってたけどさ。

思ったより早くこの関係は終わるかもしれない。
そんな想いが、私を必要以上にクールな態度にさせた。


ゴールデンウィーク後半、義人くんは姿を見せなかった。
連休が明けると、義人くんの周囲に変化が起きた。

今まで女子に囲まれてたのに、この連休中に毛色の変わった男子のお友達ができたらしい。
入学式で和田先生が注目していたフランス人形のような美しいハーフの男子と、日本人形のような白い肌と長い黒い髪を無造作にまとめた男子。

「松竹梅ね!」
薬剤師の和田先生が名簿を見て、鼻息荒く断言した。

「……何ですか?それ。」
「ほら、見て。あの3人の名字。松本聖樹、竹原義人、梅宮彩乃……ね!」
安直だけど、確かに綺麗に揃ってた。
でもどうせなら「三銃士」とか美しく形容してほしいな。

「あら、この子……梅宮くんって、連休前に何度かココに来てましたね。寝不足と貧血で。」
来室記録を確認すると、3度。
身体が弱いっていうよりは単なる睡眠不足って雰囲気だったけど……。
義人くんとは夜遊び友達なのかしら。

……同年代のお友達と仲良く遊んで、そのうちにお似合いの彼女でも作ってくれたら、私はフェードアウトしてもらえるのかな。
一抹の淋しさはあるものの、早く解放されたいと本気で望んでいた。

その夜、義人くんがばつの悪そうな顔でやって来た。
「あら、いらっしゃい。お友達、できたんですって?」
……5日ほど音沙汰がなかったことには一切触れず、当たり障りなくそう聞いた……つもりだった。

でも義人くんは、一気に顔色を変えた。
なに?
お友達って、男の子のお友達のつもりで言ったんだけど……もしかして女の子のお友達もできた?

余計なことは言わないように、冷蔵庫を開けて背中を向けたまま聞いた。
「たいしたものないけど、食べてく?……それとも、お茶だけですぐ帰る?」

もしかして速攻、別れを切り出されたりして。
義人くんの緊張が私にも伝染してきた。

不意に、ぎゅーっと背後から義人くんが抱きついてきた。
身体が勝手にビクビクと反応した。
「夏子さんが欲しい。」
力強くそう言われて、私の全身から力が抜けた。
「……うん。」

拒めるわけない。

どんなに自分を偽っても、強がっても……一度覚えさせられた快楽から逃れることはできない。

私たちは、ベッドに行くのももどかしく、狂おしく求め合った。
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