カフェ・ブレイク
「都合のいい女……」
私の自嘲は、かすれて声にならなかった。

義人くんはまだ動けない私をベッドに残して、キッチンに立った。
「今夜は俺が作るから、寝とき。」

「……君、料理できるの?」
今度はちゃんと声になったようだ。

「調理実習でしか包丁握ったことないけど。夏子さんの料理するのん見てたから、何とかなると思う。」

大丈夫かしら。
手を切らないか心配で、私は四肢に力を入れて何とか起き上がった。
けど、腰が……へにゃへにゃ。
仕方なくバスローブを羽織って、赤ちゃんのように四つん這いでソロソロとキッチンへと向かった。

「ね~。何、作るの?大丈夫?」
「びっくりした!……来たん?寝とけばいいのに。」
下から声をかけられて、義人くんは本気で驚いていた。

「だって……心配で……」
義人くんはちょっと笑ってから、自分もしゃがんでキスした。

……むぅ……。

「大丈夫。でも夏子さんみたく手際よくできないだろうから、ベッドでゆっくりしてて。」
そう言いながら、ひょいとお姫さま抱っこでベッドに戻された。

……やっぱり、敵わない。

小一時間後、義人くんの「はじめての手料理」をごちそうになった。
……焦げてもいないし、塩辛くもない……つまんないぐらい、普通に美味しい。
何でもできる子って、や~ね。
そうぼやきたくなるぐらい、ちゃんとした食事だった。

「豚生姜焼き、豚汁、炊き込みご飯……少ない材料を使い回して、すごいすごい。」
褒めてみたけど、義人くんは首をかしげていた。

「何か、大味。夏子さんと同じようにしたつもりなんやけど……何が足りひんの?」
「これだけできたら充分やと思うけど。そうね……豚肉の下味つけた?あとは、おだし、かな。」

化学調味料とか顆粒だしを置いてないから、たぶんだしパックを使ったんだろうけど……私はいつも昆布と追い鰹をプラスしてるから、そのへんが違うのかもしれない。

「なるほど。次、茶碗蒸し教えて。中にうどん入れたい。」
意欲的にそう言ってから、義人くんは私の顔を覗きこんだ。
「ココに来てもいい?……俺。」

ちょっと驚いた。
「どうして?ダメって言った?」

「……待たれてはいいひんのかな、って。」
淋しそうにそう言った義人くんに、肩をすくめた。

「約束してないのに待つわけないでしょ。」

義人くんの言いたいことはわかるけど、敢えてかわした。
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