カフェ・ブレイク
「俺、迷惑?」
「……迷惑なら追い返すし、部屋に入れない。」
「そぅかぁ?」

何か嫌な流れ。
もしかして、義人くん……ちょっと後ろめたいものを抱えてない?

「ねえ?もしかして、好きな人できた?」
義人くんの顔がこわばった。

……やっぱり……そういうことか。
「なーんだ。どんな子?もう付き合ってるの?……私のことは気にしなくていいわよ?」
ちょっと心は疼くけど、余裕ぶってそう言った。

乱暴にお箸を置いて、義人くんは立ち上がった。
「あー!もうっ!何でそうなん!?夏子さん、ほんまに、俺のこと、何とも思ってへんの!?ヤッてる時はちゃんと好かれてるって実感するのに、それ以外は別人みたいに冷たい!……俺ばっかり悩んで……しんどいわ……」
珍しく感情が爆発しているらしい。

「……好きよ。でも、束縛しないし、約束もしない。刹那的で充分幸せなの。」
幾度となく繰り返してるスタンスを伝えるけど、義人くんはそれがまた気にいらないらしい。

「俺がつらいねん!ちゃんと、俺のこと、捕まえててくれんと……無理や……」
そう言って崩れるように椅子に座って、義人くんは頭を抱えた。

無理……か。

「何があったか聞いて欲しいなら、聞いたげる。愚痴でもいいわよ。でも、懺悔は要らない。」
義人くんの頭を撫でながら、そう言った。

恨めしげに義人くんは私を見た。
「……夏子さん、俺には、ほんま、意地悪。」

そうかもしれない。
自己防衛なんだけどね。

義人くんは、しばらく逡巡した後、観念して言った。
「夏子さんに一目惚れした夏以来やから……2年9ヶ月ぶりか……心を奪われた。マジで惚れてしもたと思った。……でも、男やった。自分が男に惚れると思わんかった……今も、信じられへんし、思い出すとショックすぎる……」

予想外の告白に、私はしばらく何も言えなかった。




つまり義人くんは、ゴールデンウィークに恋に墜ちたらしい。

「父親の会社の付き合いで、日本舞踊の会を観に行ってん。その舞台で、この世のものとは思えへん絶世の美女の舞を見て……魂を抜かれたって言うか……。」

「それが、男だったの?女形(おやま)ってこと?」

義人くんは、ふてくされてうなずいた。
「楽屋に逢いに行ったら、見たことある奴が化粧を落としてた。同じクラスの、梅宮彩乃やった。」

え!?
意外な名前が出てきたわね。

「梅宮くん……そう。それで、あの風貌。納得だわ。普通の高校生男子にしては、きれい過ぎるわよ。女形かぁ。……写真ないの?見たい!」

はしゃぐ私と対照的に、義人くんは額に手を当ててため息をついた。
< 195 / 282 >

この作品をシェア

pagetop