カフェ・ブレイク
「先入観もたれそうだからあんまり言いたくないんだけど……生まれ育ったのは芦屋。親が離婚したの。」

案の定、義人くんは反応した。
「芦屋!どおりで!俺、最近けっこう行ってるで。……ほら、セルジュが、芦屋から通ってるから。」

セルジュというのは、義人くんの親友の1人の松本聖樹くん……あの、金髪のフランス人形のような男の子だ。

「そうみたいね。住所見てびっくりしたわ。通学時間けっこうかかるのに、ちゃんと通ってるのねえ。」

確か松本くんのお家は芦屋山手だったっけ。

「まあ遠いけど、ほとんど座れるから苦じゃないねんて。夏子さんも阪急の近く?」
……義人くんの聞き方に苦笑いしてしまった……阪急、JR、阪神……と沿線住宅に序列があることを意識してるらしい。

「最寄りは阪急だけど、車じゃなきゃ行けないぐらい遠いわよ。山奥だから。」
「ふぅん……」

義人くんの微妙な反応をスルーして、ベッドを出た。
「何か飲む?」
「炭酸系。何でもいいよ。……もしかして、有馬へ抜ける有料道路を通らないと行けないところ?」

正解だ。
ペリエをグラスに入れて手渡すと、義人くんはうれしそうに飲み干した。

「やっぱり夏子さん、お嬢さまやってんなあ。納得。」
「……そうでもないわよ。祖父の代は羽振りもよかったみたいだけど、相続税で貯金がなくなったし。慎ましい生活と地味な父が、派手な母には我慢できなくて、離婚したようなもんなの。」

毎年、年賀状やバースデープレゼントぐらいしか交流のない父を懐かしく思い出す。
……再婚した奥さんは、父の幼なじみの穏やかなイイヒトだから、たぶん幸せに暮らしてるだろう。

「お母さんは、派手なんや。へえ~。……夏子さんの車の趣味はお母さん譲り?」
「どうかしら。」

曖昧に笑って誤魔化した。
章(あきら)さんの話にまで発展させないように、神戸への転居の話は絶対にしたくなかった。

絶妙のタイミングで、義人くんは私に過去を思い出させたものだわ……。
ちょうど西宮の玲子さんからのお誘いメールを断ったところだった。

玲子さんにはすごく会いたいけど……今のこの状況をどう言えばいいのか……。
言えない……高校生と火遊び中なんて、とても言えない。

それに、章さんの状況を知りたくもあり……知るのが怖かった。
本当に適当な人とあっさりと結婚してそうなんだもん。

いや、結婚して離婚してるかも。

それとも、まだ小門さんの本妻さんを想い続けてるのかしら。

……どれも嫌すぎる。
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