カフェ・ブレイク
信じられなくて義人くんを見た。
義人くんの目に涙が光っていた。
……胸がしめつけられるように痛くて……私の両目から涙が滝のように流れ落ちた。

「ごめ……んなさい……」
涙が止まらない。

義人くんは慌てて私を抱きしめた。
「夏子さんが謝ることちゃうやん。諸悪の根源は、あいつやろ。」

「だって……聞いてたのに……橘さんが義人くんのことを想ってるって知っててこんなことにならないか心配してたのに……束縛と思われたくなくって何も言えなかったの。……釘を刺すことはできたのに……」

頭の上で義人くんがため息をついた。
「せやなあ……俺は夏子さんに束縛してほしかったかな。百合子のことは関係なく。今からでも遅くないで?俺を独占する気になった?」

……何、それ。
一瞬、涙も引っ込んだ。

「今、そんな話してない……」
顔を上げてちょっと睨んだ。

義人くんはおどけてウィンクしてみせた。
「残念。どさくさに紛れて、夏子さんと将来を誓い合えるかと期待したのに。」
「……もう!……それより、妹さんのこと!これからどうするの?」
「……へえ……百合子、マジで妹なんや……あの、くそ親父……」

義人くんの声が、顔が、ガラッと変わった。

しまった!

と思った時には既に遅く……義人くんの顔から血の気が引いていた。

私が口を滑らすのを待ってたんだ。

疑惑が確信に変わって、義人くんは事の重大さに気づき、私にすがりつくようにしがみついた。
「夏子さん……俺、どうしたらいい?……百合子が……」
義人くんの声が震えてる。

「ごめん。……ごめんね。」
私には、ただ謝って義人くんの背中を撫でることしかできなかった。

「夏子さんは何も悪くない。」
しばらくすると気持ちも落ち着いたらしく、義人くんは再びそう言って、かすかに笑った。
「ほんまは、百合子に対して一言では言い表せへん愛憎を感じてた気がする。妹が……由未のことがなかったら、もうちょっと冷静になれたかもやけど……」

妹さん……ね。
義人くんが妹さんのことをいかに大事に想ってるか、語られなくてもわかってた。

以前私のことを「家族以外ではじめての特別な存在」と言ってたけど……妹さんは本当に特別な存在なんだと思う。

てゆーか!
頭もいいし、容姿もいい、お家もお金持ちで、女子にもてまくり……こんなに恵まれた子なのに、義人くんって……なんてゆーか、報われない恋が好きよね。
妹さんしかり、梅宮くんしかり、たぶん私も、そう。

「これから、橘さんのことも好きになっちゃうね。」
「なんで?」
怪訝そうな顔をした義人くんに、苦笑した。
「君、タブー、好きじゃない。」

義人くんは、悲しい顔になった。
「……そんなんちゃうわ。」

力なくそうつぶやいて、それっきり押し黙ってしまった。
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