カフェ・ブレイク

18歳の本気

京都に来て、丸５年が過ぎた。
薬剤師の和田先生と仲良くさせていただいてるおかげか、毎年何の問題もなく契約更新されてきたが……３学期の半ば、理事長室に呼ばれた。
「我が校としては、来年も大瀬戸先生にお願いしたいのですが……別のもっとイイ話がありましてね。大瀬戸先生を是非にとの縁談なのですが。」

「……縁談、ですか。」
どういう意味だろう。
体（てい）のいいクビだろうか。

「あの、私、もう今年は30才になりますし、離婚歴もありますし、理事長にご紹介していただくには不適切では……。もっと若い先生もいらっしゃいますし。」

そう言ってみたけど、理事長は慌てて手を振った。
「いやいや！誰でもいいわけじゃないんですよ。大瀬戸先生がいいんですよ。……吉永先生。」

理事長が呼んだのは、体育教諭の吉永拓也先生。
珍しく、ジャージではなくスーツを着て、緊張した面持ちだった。

「ご存じかと思いますが、吉永先生は私の従姉妹の子でしてね、旧家の跡取りなのにいつまでもいっこうに浮いた話もない真面目な男です。こいつが、実はずっとあなたを好きだと言うんですよ。お見合いだと思って、ちょっと真面目に付き合ってみてもらえませんか？」

理事長の言葉を受けて、吉永先生は勢いよく頭を下げた。
「お願いします！」

……えーとー……。

「あの、旧家には、ふさわしくないと思いますよ、私。バツイチだし。」

吉永先生は、ガバッと顔を上げた。
「それは！もう解決しましたっ！」

……はぁ？
意味がわからない。

理事長が、苦笑して説明してくれた。
つまり、私が就任した翌日、吉永先生は恋に落ちたそうだ。
どんどん好きになって、本気で仲人を立てて求婚しようとしたところ、私がバツイチだと聞いてしまった。

吉永先生自身はともかく、先生の親御さん、特におばあさまが猛反対したらしく、泣く泣くあきらめたらしい。
ところが昨年おばあさまが亡くなられて、お父さまの態度が一気に軟化。
そんなに好きなら嫁として迎え入れてもいい、と許可をくれた、そうだ。

「ですから、大瀬戸先生は大手を振って嫁いできてください！」
吉永先生は真っ赤になって、そう叫んだ。

「……。」
私は、何も言えなかった。

正直なところ、呆れてしまった。
勝手にもめて、勝手に解決したらしいけど、私には無関係じゃないか、それ。

何も聞いてない。
何も知らない。
まさに、寝耳に水だ。