カフェ・ブレイク
いや、吉永先生はイイヒトだと思う。
週に3回、カウンセリングルームの鍵のやりとりをするだけでも、その真面目さと誠実さは伝わってくる。
悪い印象は一つもない。

でも、そういう対象として見たことがないのだ。
いきなりそんなこと言われても、返事できるもんじゃない。

「大瀬戸先生?」
汗を光らせて吉永先生は私の顔を覗き込んだ。

……顔が引きつって、作り笑いすらできない。
「少し、時間をいただけますか?突然のお話で、今は何とも……」
あっさり拒絶するのは理事長の顔をつぶすことになりそうなので、私はそうごまかして退出した。


その日から、吉永先生の猛アタックが始まった。
朝、昼休み、放課後、必ず吉永先生の訪問を受けた。

夕食や飲みに行く誘いも受けるが、車通勤を理由にほとんど断った。
たまにご一緒しても、吉永先生の鼻息の荒い緊張っぷりは、私には魅力的に見えなかった。

「吉永たっくん、本気出してきたねえ。……優良物件だとは思うけど。夏子さん、あの手の男、好きちゃうやろ?」
意外と義人くんは冷静に見ていた。

「そうね。お家の意志を尊重する朴念仁は、懲り懲りだわ。……ただ、理事長が間に入ってる分、気を遣うというか。」
「そうなん?……夏子さん、流されやすいからなあ。そっかあ。そりゃ、まずいな。」

義人くんはしばし悩んだふりをしてから、意を決したように顔を上げた。
「既成事実作っちゃおうか?俺と、できちゃった婚しいひん?」

……勘弁して。

「何でそうなるの。」
脱力してそう言うと、義人くんはことさらに胸を張った。

「もうすぐ18やで、俺。法的に問題ないわ。いいやん。」

……そう言えばそうだったわね。

改めて義人くんを見た。
少年は、いつの間にか青年になっていた。

「……大きくなったわねえ。……そう……18才なの。……潮時かしら?」
しみじみとそう言って目を伏せた。

義人くんの顔がこわばった。
「どういう意味?」

「別に。君が18なら、私もすぐに30になるってこと。吉永先生には何の感情もないけど、理事長が間に入ってるってことは、断ったら4月からは働きづらくなるし……いろいろ潮時だと思ったまでよ。」

5年間、か。
今さら章(あきら)さんのもとに戻ることはできないけれど、次を探す時期かもしれない。

義人くんは、無言で私を抱き上げると、ベッドに連れて行った。
「……強引ね。ちゃんと避妊してよ。妊娠で女を縛るとか、最低だからね。」

睨んでそう言うと、義人くんは傷ついたようだ。
「わかってる。卑怯者になっても夏子さんが欲しいけど、心が離れたら意味ないし。……俺にできる精一杯の愛情表現、させて。」

……精一杯が、セックス?

苦笑しながらも、私たちはそれまで以上に刺激的な行為に溺れるようになった。
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