カフェ・ブレイク
お守……する気は、確かにないかも。

てか、今の言い方だと、要人さん?
もしかして、反対してないの?

「あのぉ……今年30歳ですよ?私。義人くんにはもっとふさわしい女性が」
「私も家内も、あれの意志を尊重します。」

私の言葉を遮って、要人さんはキッパリそう言った。
固まる私に、要人さんは表情を和らげた。

「世間体や愚息に翻弄されず、夏子さんご自身がどうしたいのか、考えてみてください。焦らず、ね。」

……この人は……本当に……どういう人なのだろう。
底が知れない。
義人くんのお守より、要人さんを舅にするほうが怖いんですけど。


翌日は始業式だった。
理事長は完全に私を無視し、吉永先生はそれでも一生懸命自分をアピールしてきた。
ぼんぼんにしては、食い下がってくるのね。

薬剤師の和田先生にからかわれながら、私はこの先の見えない状況に少しずつ慣れてきた。
……まあ、吉永先生が根性を見せてくれたら、私もほだされるかもしれない。
もれなくあのご両親がついてくると思うと気が重いけど。

放課後、義人くんが保健室にやってきた。
「桜吹雪。……きれいやな。」
校庭を眺めてひとりごちてから、私と和田先生に向かって宣言した。

「俺、大学受験することにしました。今後ちょくちょくこちらにお世話になると思いますんで、よろしくお願いしますわ。」

受験?

「系列の大学に行かない、ってこと?」
和田先生の問いに、義人くんはうなずいた。

「狭き門に挑戦したくなりました。」 
意味深な目で私を見て、義人くんはそう言った。

……そう。
本気なのね。


夜、うちにやって来た義人くんは、しれっと言った。
「今朝、突然彩乃が受験するって言い出してんわー。マジみたいやし、どうせ同じ大学じゃないんやったら、より上を目指そうかと思って。」
「……梅宮くんが受験するから、君も受験するの?……意味わかんない。」

呆れてそう言うと、義人くんはちょっと笑った。
「まあ、彩乃はきっかけやな。学歴は邪魔にならんやろ?」

「そりゃそうだけど……うちの大学だって充分偏差値の高い名門なのに。」
私がそう文句を言うと、義人くんはふわりと私を抱きしめた。
「でもうちは1,2回生の間は遠くのキャンパスに通うことになるやん?俺、ずっと京都にいたいもん。少しでも夏子さんのそばがいい。」
「……私が引っ越すかもしれないのに?」

義人くんはギョッとしたように私の顔をのぞきこんだ。
「なんで?どこ行くん?実家帰るん?」
「さあ?例えばの話よ。」

いつまでこうしていられるか、わからない。
だからこそ私はこの奇跡のような時間を心から楽しんだ。
愛しい、ただ愛しい。
義人くんの笑顔がとても愛しい。
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