カフェ・ブレイク
エレベーターが最上階に着いた。
降りようと立ち上がったけれどふらついてる俺を、慌ててなっちゃんが支えてくれた。
……重いだろうに。
なっちゃんは、そのまま、俺の部屋の中まで入ってきた。

もう、いいよ。ありがとう。
そう言って帰そうとしたけど、半分ぐらいしか言葉にならなかったらしい。
なっちゃんは、華麗にスルーした。

「章さんはベッドにちゃんと入って寝ててください。冷蔵庫開けますね。あと、鍵もお借りします。ポカリとか買ってきますから。」

……。

断りたかったけど、意外と役に立ちそうななっちゃんを、今の俺には拒絶する元気もなかった。
コートを脱いだだけで、ベッドに倒れ込み、意識を失うように爆睡した。


どれぐらい時間がたったのだろう。
目を開けると、なっちゃんのアップ。

「……何やってんの?」
どさくさ紛れに襲われるのか?俺。

なっちゃんは真っ赤になって、慌ててまくしたてた。
「違っ!違いますっ!額!あの、汗!冷えぴたシート!」

……怪しい。

「風邪だろうから、うつるよ。近づくと。」
そう言いながら、起き上がる。
いっぱい汗をかいたらしく、ちょっと気持ち悪い。

「別にいいです。どうせもう学校休みやし。あ、着替え、これでいいですか?勝手にクローゼット開けちゃいました。着替えてください。」
そう言って、なっちゃんは寝室から出て行った。

……まずいな。
俺のことをもう何年も想ってくれてる子を、この状態で家に入れるのは、非常にまずい気がする。
別に、見られて困るものはないけど。
……身も心も弱ってる俺に、ちゃんと理性が働くのだろうか。

なっちゃんが準備してくれた厚手のパジャマに着替えて、人心地つく。
寝室のドアがノックされる。
「どうぞ。」
なっちゃんが遠慮がちにドアを開けて入ってきた。

「章さん、いっぱい汗かいてたので、これ、飲んでください。お腹はすいてませんか?何か作りましょうか?」
2リットルのポカリスエットからグラスにトポトポと音をたてて注いで、俺に手渡してくれた。

「……ありがとう。で、何で、俺のこと、名前で呼んでんの?」
常温のポカリを飲みながら、なっちゃんの弁明を待つ。

なっちゃんは、赤くなって口をパクパクしていたけれど、泣きそうな顔をしてうつむいた。
「ごめんなさい。……前に『古城さん』ってお呼びして怒られたので……『章さん』ならいいのかな、って……」

……やばい。
なっちゃんがかわいくて、虐めたくなる。

「ふぅん。なっちゃんも、女なんだねえ。あつかましくて、図々しい。」

距離を置こうとして、わざとそんな風に言った。
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