カフェ・ブレイク
「君、受験勉強してるの?」
ゴールデンウイークが終わると、義人くんはなんと、教習所に通い始めた。
「してるで。授業中と、教習所の待ち時間と、車の中と……」
「お家で!集中して!勉強する時間あるの?うちに来るの、控えたら?」

私の提案は一笑に付された。
「集中なんかどこでもできるわ。ほな、ここで勉強したら安心する?」
……それは……私が気になってしょうがないかも。

「ちゃんとやってるから、心配せんでいい。それより、誕生日が来たらすぐ免許証取りに行くから。俺の運転でドライブ行こうな。」
義人くんはニコニコそう言ったけれど、

「やーよ。初心者の運転、怖いもの。」
とけんもほろろに言ってしまった。

「大丈夫。オートマに乗るから。俺、夏子さんと違て、車にこだわりないし。何でもええねん。」
そう言って、義人くんは私を腕の中に捉えた。

「早く18になりたい。」
……義人くんのつぶやきに、私は涙が出た。

18才になったら、本気でプロポーズでもするつもりなんだろうか。
私は、ちゃんと断れるんだろうか。



身体の異変に気づいたのは、梅雨に入ってからだった。
いつものように、吉永先生につかまって、家の行事の話や、外部でのご公務の話を聞かされているときに、何となく耳がぼーっと聞き取りにくくなった。

あれ?
……その時は、興味のない話だから耳が拒否したぐらいにしか思わなかった。

「え!?いいんですか!?本当に!?やった!」
目の前で吉永先生が大喜びしてるのを見て、自分がわけもわからずに返事したことに気づいた。

何の話だっけ?
慌てて身を入れて話を伺った。

「ずっとは無理ですよね?何日ぐらいなら大丈夫ですか?」

えーとぉ……
笑顔がひきつる。

「連日にして現地に泊まりますか?それとも一回ずつ通いますか?」

あ、何となくわかってきた。

「通いで。3日ぐらいでいいですか?」
「わかりました!ありがとうございます!」
吉永先生は太陽のような笑顔になった。

……今年、吉永先生は体育連盟の役職についている関係で、高校総体の運営にだいぶ駆り出されるらしい。
お手伝いを頼んでいた養護教員の数が足りないとか何とかで、代役を頼まれたのだが……まあ、単に夏休みに会う口実が欲しいのだろう。
会場となる県まで、車で2時間もかからないし、通うのもそう苦ではない。
いくばくかの手当金も出るらしいし、帰りに温泉に寄ってきてもいいかも。

何の気なしに引き受けてしまったけれど、前向きに楽しんでいた。
この時は。
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