カフェ・ブレイク
小汚い看板や校舎を見上げて義人くんは顔をしかめた。
「しかしもうちょっと綺麗にならんかなあ。目指す気ぃも薄れる汚さやわ。」
「そっか。ココなのね。君の目指す大学は。」
来年、ココの学生になってる義人くんを想像しようとしたけど……できなかった。
それより、お腹に宿った子供が楽しみでしょうがない。
「行こう。早よ行って早よ帰ろ。夏子さんの熱が上がったら大変や。」
義人くんはそう言って私の手を握った。
いつもなら振りほどくけど、今夜は私も強く握り返した。
蛍は、目を凝らして探さなくても見える程度に、いた。
ただし、けっこうヒトもいた。
残念だけど、手をそっと放し、心持ち離れて歩く。
すぐそばに義人くんがいるのに、他人行儀に振る舞う。
……淋しいけれど、お腹に手を当てると、勇気をもらえた気がした。
うん。
大丈夫。
私、何とかやっていける気がする。
義人くんの背中を見つめて、私は自分に言い聞かせた。
別れる、という選択肢が現実味を帯びて、唯一の道のように思えた。
翌日、早速、校長に退職の意志を伝えた。
一学期いっぱいで辞めるので、後任の養護教諭を探してほしい。
そう伝えてから保健室に戻ると、薬剤師の和田先生が心底驚いて待ち構えていた。
……伝達、早っ!
「せっかく仲良くやって来れたのに……残念だわ。妊娠でもしたの?」
ズバリと指摘されて、私は何も言えなくなってしまった。
「……でなきゃ、いきなり辞めないでしょ?相手は?吉永先生じゃないわよね?」
私は苦笑してうなずいた。
「ずっと真相を聞けなかったけど、大瀬戸先生……内緒で付き合ってる人いましたよね?」
さすがに、それにはどう反応すべきかわからず、私は曖昧に首を傾げた。
すると和田先生は、ためらいながらも続けて聞いてきた。
「誰にも言わないから安心して。お腹の子の父親は、あの子……竹原くんのお父さんでしょ?」
要人さん?
……そうきたか。
いや、でも、そのほうが現実にあり得るのかもしれない。
私は返事をしないで、聞いてみた。
「和田先生は、好きなヒトの子供を授かったら、産みますか?」
すると和田先生はあからさまに動揺した。
「……産めないのよ。相手がパイプカットしてるから、いくらしても授からないの。」
あ~……校長、抜かりないな。
「そうでしたか。それはそれで、和田先生を思いやってらっしゃるのかもしれませんね。」
ちょっと言いにくいけれど自分の気持ちを伝えた。
「しかしもうちょっと綺麗にならんかなあ。目指す気ぃも薄れる汚さやわ。」
「そっか。ココなのね。君の目指す大学は。」
来年、ココの学生になってる義人くんを想像しようとしたけど……できなかった。
それより、お腹に宿った子供が楽しみでしょうがない。
「行こう。早よ行って早よ帰ろ。夏子さんの熱が上がったら大変や。」
義人くんはそう言って私の手を握った。
いつもなら振りほどくけど、今夜は私も強く握り返した。
蛍は、目を凝らして探さなくても見える程度に、いた。
ただし、けっこうヒトもいた。
残念だけど、手をそっと放し、心持ち離れて歩く。
すぐそばに義人くんがいるのに、他人行儀に振る舞う。
……淋しいけれど、お腹に手を当てると、勇気をもらえた気がした。
うん。
大丈夫。
私、何とかやっていける気がする。
義人くんの背中を見つめて、私は自分に言い聞かせた。
別れる、という選択肢が現実味を帯びて、唯一の道のように思えた。
翌日、早速、校長に退職の意志を伝えた。
一学期いっぱいで辞めるので、後任の養護教諭を探してほしい。
そう伝えてから保健室に戻ると、薬剤師の和田先生が心底驚いて待ち構えていた。
……伝達、早っ!
「せっかく仲良くやって来れたのに……残念だわ。妊娠でもしたの?」
ズバリと指摘されて、私は何も言えなくなってしまった。
「……でなきゃ、いきなり辞めないでしょ?相手は?吉永先生じゃないわよね?」
私は苦笑してうなずいた。
「ずっと真相を聞けなかったけど、大瀬戸先生……内緒で付き合ってる人いましたよね?」
さすがに、それにはどう反応すべきかわからず、私は曖昧に首を傾げた。
すると和田先生は、ためらいながらも続けて聞いてきた。
「誰にも言わないから安心して。お腹の子の父親は、あの子……竹原くんのお父さんでしょ?」
要人さん?
……そうきたか。
いや、でも、そのほうが現実にあり得るのかもしれない。
私は返事をしないで、聞いてみた。
「和田先生は、好きなヒトの子供を授かったら、産みますか?」
すると和田先生はあからさまに動揺した。
「……産めないのよ。相手がパイプカットしてるから、いくらしても授からないの。」
あ~……校長、抜かりないな。
「そうでしたか。それはそれで、和田先生を思いやってらっしゃるのかもしれませんね。」
ちょっと言いにくいけれど自分の気持ちを伝えた。