カフェ・ブレイク
れいちゃんがファンクラブの会員さんから離れて駅へ向かうのを待って、義人くんが携帯を鳴らした。

ハッとしてキョロキョロとあたりを見渡したれいちゃんは、手を上げた義人くんを見て、ぱあああっ!と顔を輝かせた。
まぶしいほどのキラキラな笑顔に苦笑した。
……そうか……れいちゃんは今は舞台より、恋に夢中なのね。
がんばらなきゃいけない時なのに……。

私の心配をよそに、れいちゃんは息を弾ませて駆け寄ってきた。
「義人!」
そっとう言って抱きつこうとしたれいちゃんを、義人くんはひらりとかわした。
「ファンの子に見られるで。」

たしなめる義人くんに、ぶ~っとふくれて見せるれいちゃんは完全に普通の女の子だった。
「れい、あかんわ。もうちょっと練習しぃ。あれじゃ、次からエエ役来ぉへんで。」
「義人くん!」

歯に衣着せぬ物言いにびっくりしたけれど、れいちゃんは素直に聞いていた。
「ほな、帰るわ。一応、期末テスト期間中やし。」
言いたいことだけ言って、義人くんは背を向けた。

「あ、じゃあね。れいちゃん。お疲れさま。明日からもがんばって。」
慌ててそう言って、差し入れを渡した。

「ありがとうございます。大瀬戸先生、またいらしてくださいね。」
よそ行きの笑顔でそう言われて、私は一抹の淋しさを覚えた。

心からの可愛い笑顔で甘えてくれた少女は、いつの間にか大人の女性になっていた。
距離を感じちゃったな。

……こっちも、潮時ってことみたい。
れいちゃんから義人くんに私の所在がバレても困るから……ちょうどよかったのよね。

「身体に気をつけて。元気で。」
最後にそう声をかけて、れいちゃんを見送った。


帰りは、義人くんが運転した。
免許を取得してから毎日のように運転してるらしく、危なげなく高速道路もこなし、こっちにちょっかいを出してくる余裕さえ見せた。

「ねえ。れいちゃんにもうちょっと優しくしてあげられないの?」
隙あらば伸びてくる義人くんの手を撥ね除けて、そう聞いてみた。

「……ちやほやされすぎて天狗になってるのに、俺まで甘やかしたら、れいのためにならんやろ。」
義人くんは前方を睨んでそう言った。
「そう。……そうかもね。」

ちゃんと考えてくれてたのね。
イロイロ心配な気がしていたけれど、私は何だか肩の荷がおろせた気がした。

れいちゃんも、義人くんも、とっくに子供じゃない。
ちゃんと人として、成長してることを感じて涙がこみ上げてきた。
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