カフェ・ブレイク
「でも、れい、やる気なくしてる気がするわ。一期上の渚さん?……あの人もれいと同じように下手くそで全然成長せんのに、あからさまな金コネと華だけで新公主演やん?れいは渚さんほどギラギラしてへんし、プライドも高い分……中途半端やねん。……え?夏子さん?なんで泣いてるん?」

そっと伸ばしてきた義人くんの手に、自分の手を重ねた。
「……感情失禁。老化。年取ると涙もろくなるの。」
私の返事に、義人くんは肩をすくめた。

本当よ。
いろんな想いがいっぱいありすぎて、自分の中で処理しきれなくなってる気がする。

とりあえず、この手を放しなくない。
……今だけは……。



一つずつ、片付いていく。
具体的な荷造りなんかは、義人くんにすぐばれてしまいそうなので、敢えて何もしなかったけれど、心は着実に整理が進んでいた。

終業式が終わって、夏休みに入った。
最後のお勤めは、あの吉永先生にお願いされたインターハイのお手伝い。
もちろん、吉永先生にも何も告げないまま、開会式の前日を迎えた。

朝8時半。
なぜか待ち合わせ場所にいたのは、吉永先生と、もう1人……義人くんの妹の竹原由未さん。
聞けば、前もって手伝いを頼んでいた生徒のピンチヒッターらしい。
……き、緊張するわ。

実際、車内は何だか変な緊張感に満ちていた。
私は由未さんに緊張してるし、吉永先生は私に対して緊張してるし、由未さんもガチガチに緊張しているようだった。
……由未さんは自分から口を開くことはなく、吉永先生のおもしろくもない話をじっと聞いていた。
固い表情からはあまり義人くんに似てるとは感じなかったけれど……要人さんの面影は色濃く見えた。

10時半に、開催県の県庁別館にある準備室に到着すると、必要なものを積み込み、いくつかの会場である体育館と運動公園を回った。
各競技ごとの集計表や賞状、表彰式のための資料を運ぶらしい。
この時はじめて私はお手伝いする2日間、サッカー会場の運動公園に詰めると知らされた。

いただいた資料をめくって、息を飲んだ。
懐かしい母校の名前がそこに記されていたのだ。

……でも、そんなにサッカー部、強いイメージないんだけど。
そういえば、章さんも小門さんもサッカー部だったわ。

そっか。
お2人の後輩にあたる子たちなんだ。
何だかテンションが上がったけれど、吉永先生にも由未さんにも黙っていた。
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