カフェ・ブレイク
正午にお弁当が配布された。
気づけば由未さんの姿が見えなくなった。

慌てて吉永先生に確認すると、控室は喫煙者が多くて空気が悪かったので外で食べると言って出て行ったらしい。

この炎天下に外で食事なんて、大丈夫かしら。
私は少し急いで食べて、由未さんを探しに出た。
運動公園はけっこう広くて、庭園のような空間も多く、きれいなところだった。

あ、いた。
由未さんは、ボロボロのお弁当を持って、ぼ~っと突っ立っていた。
何かトラブルに巻き込まれたらしい。

話しかけると、ほろりと一粒、由未さんの目から涙が零れ落ちた。
言いようのない切なさを感じた。
……これは……もしかして……

「おい!お前!」
後ろから声をかけられて、由未さんと2人で振り返った。

そこには、あちこちに傷を作った、なかなかのイケメン男子がいた。
ユニフォームと校名に、目を見張る。
まさに私の母校!

彼は、由未さんに袋入りのパンとポカリのペットボトルを押し付けるように手渡した。
「弁当、悪かったな。」
それだけ言って、彼は走り去った。
……うーん……かっこいいじゃないか、後輩。
「……兵庫県代表の選手かな。」
そう言いつつ目を細めてその後ろ姿に感嘆している私の隣で、由未さんはすっかり恋に落ちていた。



控室での作業を終えると、由未さんは選手名簿を食い入るように見はじめた。
どうやらさっきの男子を見つけたらしく頬を染めた由未さんは、とてもかわいらしかった。
つい、協力したくなっちゃった。

帰るまでの1時間、私は由未さんを誘って、彼……佐々木和也くんのいる我が母校の練習を見学した。
持参した観劇用のオペラグラスは10倍なので、スタンドからでも佐々木くんがよく見えた。
由未さんに双眼鏡を貸すと、食い入るように佐々木くんを追っていた。

……もしかして、由未さん、初恋なのかしら。
かわいいな。
つい、自分が章さんに一目惚れした時のことを思い出した。

帰りの車の中、吉永先生に聞こえないように、由未さんに小声で言った。
「開会式の翌日が佐々木和也くんの1回戦よ。ちょっと遠いけどがんばって見にくるといいわ。」
由未さんは涙目で私を見て、両手で私の手をぎゅっと握った。
健気さが愛しくて、私はすっかり由未さんのことを好きになった。

学校で解散した後、すぐに義人くんにメッセージを入れた。

<かわいい妹さんが初恋に落ちた現場に居合わせちゃった。>

予想通り、義人くんはうちに駆けつけて来た。
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