カフェ・ブレイク
なっちゃんは、ちょっとむ~っとしたようだが、逆に開き直ったらしい。
「夏子、です。私もいつまでも中学生じゃありません。大人の女扱いしてくださっていいんですよ?」

……うわ、めんどくせぇ。

「なんか、なっちゃん、お母さんに似てきたな。」
「……夏子、です。」

俺は、ため息をついて、再び横になった。
「寝るわ。」

なっちゃんも、ため息をついてから、気を取り直したように言った。
「お粥作ってきます。それまで寝ててください。」

「俺、お粥嫌い。味、つけて。」
そう注文を付けると、なっちゃんの声が少し弾んだ。
「はーい!じゃ、雑炊作りまーす。」
いそいそと、なっちゃんは寝室から出て行った。

俺の世話を焼けるのがうれしいのか……。
イイ子だよ、ほんと。
……熱に浮かされたふりして、食っちまおうかな。
って!
あかんあかん!
慌てて煩悩を打ち消し、俺は羽毛布団を頭までかぶった。


少し目を閉じただけのつもりが、本当に寝ていたようだ。
「章さん?このまま寝てますか?」
なっちゃんの囁きに、慌てて目を開けた。
「……いや、食う。食って、薬、飲む。」

ホッとしたように、なっちゃんが雑炊をお茶碗によそってくれた。
鼻孔をくすぐる酸っぱい香り。

「これ、何?」
「梅雑炊です。食べやすいかと思って。……ふーふーして、食べさせてさしあげましょうか?」

調子こいとる……。

「自分で食うから、いい。てか、今、何時?暗くなる前に帰りなよ。」
「……同じマンション内なんだし、危険ありませんよ?」

あるよ。
俺がとち狂って、なっちゃんに手を出すかもしれない。
まあ、なっちゃんはソレを危険とは思わないかもしれないが。

「……美味いな、これ。」
梅干しの酸味に食欲がわく。
だしが利いてて、旨みもある。
卵でとじてるから、舌触りがまろやか。
三つ葉と刻み海苔の香ばしさもイイ。

「よかった!章さんの冷蔵庫、けっこう充実してて何でもできそうだったけど、とりあえずは食べやすそうなのを作ってみました。明日は栄養価の高い雑炊を作りますね。」
なっちゃんは、本当にうれしそうにそう言った。

……明日も来る気か。
居つかれるとまずいと思うんだけど、俺はなっちゃんを拒絶できなかった。

「勝手に合鍵とか作るなよ。寝てる俺に悪戯とかもやめてや。」

そんな照れ隠しのような憎まれ口しか出なかった。
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