カフェ・ブレイク
翌々日、吉永先生と2人でインターハイのサッカー会場へと向かった。
2人きりなので、吉永先生は一生懸命口説いてきた。
……これも最後かもしれない……2日後にもお手伝いに来るけれど、その時には1人で行き来するから。
そう思うと、退屈なトークも感慨深く聞けた。

いくつものフィールドで1回戦が始まった。
擦過傷や捻挫で何人かの選手が来たけれど、いずれも軽傷でホッとした。
それにしてもインターハイに出場してる高校生って、みんなごっつい!
義人くんも決して小さくはないけど、厚みが倍ぐらいありそう。

……章さんや小門さんも、高校時代はこんな風だったのかしら。
ぼんやりそう思っていると、目の端に見知った顔が映った。

本部席に試合のプログラムを確認に来たスーツの紳士が、驚いた顔でこっちを見ていた。

「……なっちゃん?」
「小門さん……」
懐かしい、穏やかな優しい声に、涙が出そうになった。


「え!?キャプテンなんですか?小門さんの息子さん!」
改めて選手名簿をめくると、確かに兵庫県代表校のキャプテンは、小門頼之くん。

「うわ~、懐かしい!息子さんとは、よくポジション争いしたんですよ。純喫茶マチネの店内を覗くために。試合、観に行っちゃおうかしら。」

はしゃぐ私とは対照的に、小門さんは緊張しているらしかった。

「……え~と……玲子さんには内緒でいらしてるんですよね?私、絶対言いませんから、安心してくださいね。」
気を回しすぎかとも思ったけれど、一応そう言った。

小門さんはため息をついた。
「ありがとう。……そうだね、頼むよ。」

まだ愁眉を解いてないところを見ると、ソレが原因じゃないらしい。

「もしかして、息子さんと会うの、すごーく久しぶりだったりします?」
「……うん。舅の葬儀以来だから、13年ぐらい?」
「あ~……それは、緊張するでしょうね。」
そう言ってから、ふと気づいた。

「……奥様とも?13年ぶりなんですか?」
小門さんの顔が一気に色を失った。

なるほど。
ソレが一番の緊張のもとなのね。

まあでも、そうよね。
前に玲子さんが言ってた。
小門さんは本当は、奥様のことを未だに愛している、って。

こういう時、どう声をかければいいのだろう。

玲子さんの気持ちも、小門さんの気持ちも、息子さんの気持ちも、奥様の気持ちも……今の私には他人事に思えなかった。
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