カフェ・ブレイク
「馬鹿ね。妹さん、怒っちゃったわよ。」

義人くんは肩をすくめた。
「ずっと情緒不安定なんや。緊張してるんちゃうか?」

「それだけ真剣に恋してるのよ。かわいいじゃない。応援したげなさいよ。」
意外と素直に義人くんはうなずいた。
「そのつもりや。せっかく俺以外の男に目ぇ向けてんからな。うまく誘導せんとな。」

冗談じゃなくて本気でそう言ってるらしい。
やれやれ。
「ま、なるようになるやろ。ほな、行くわ。夏子さん、また!」

「気をつけて帰ってね。」
夏の太陽よりもまぶしい笑顔を残して、義人くんはスタンドへ向かった。

試合が始まったらしい。
少しだけ……と、私も競技場を覗いた。
うるさいほどの応援席から離れたところに、義人くんと妹さん、そして小門さんも座っていた。

頼之くんは……うわ!かっこいい!
素人目にも、頼之くんは上手かった。
てゆーか、頼之くんと佐々木和也くんだけが目立つチームだった。
この2人で勝ち上がってきたのか。

しばらく見とれていたけれど、別の試合会場から負傷者が出たらしく携帯で呼び戻された。
脂汗を浮かべて痛がってる選手の足を見せてもらう。
一瞥しただけでも捻挫以上……骨にひびが入ったか、折れたか……。
慌てて、役員の1人と一緒に病院に連れて行った。

運動公園に戻って来た時には、既に第3試合は終わっていた。
遅い昼食をいただきながら結果を見る。
……母校は負けてた。
残念。

義人くんも、小門さんも帰っちゃったかな。
お弁当を食べ終えて、お手洗いに立つ……と、駐車場への入口に小門さんが見えた。

声をかけようと歩み寄って、途中で小門さんが1人じゃないことに気づいた。
真澄さん!

慌てて私は木の陰に隠れた。
けっこう近づいたんだけど、2人の会話は聞こえて来ない。
不審に思って、そっと覗くと、2人は無言で見つめ合っていた。

えええええ!?
何?その熱い目!
そこには「愛」しか感じられないんですけど!?
ドキドキが止まらない。

しばらくして2人は無言のまま離れた。
でも背中を向けて歩き出してからも、2人とも時間差で、何度も振り返っていた。

……うわぁ……。

小門さんと真澄さんって、ほんっとに、今でも想い合ってる。

玲子さん……。
私は玲子さんがどれだけ小門さんのことを必要としているか、知っている。

知っているけれど……あの2人のあんな顔を見てしまったら……もう……。

どうしよう。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。

……もう18年以上、小門さん、真澄さん、玲子さん、そして章さんが、苦しんでいる意味をようやく実感した私は、今さらながら泣けてしょうがなかった。
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