カフェ・ブレイク
……何か、聞くのが怖くなってきた。
なっちゃん、不治の病とか、怪我して障害者になったとか、ヘヴィーな状況なのか?

小門の天然な長い沈黙に耐えきれず、俺は答えを催促した。
「何なん?」

「……なっちゃん、結婚はしてない。」
「あ、そう。」

気合い入れた分、拍子抜けした。

「ただ、妊娠してるらしい。」

ドクン!と、俺の中で鼓動が響いた。

……妊娠!?

俺の子じゃない!

当たり前だ。
5年半ヤッてないのに、できるわけない。

じゃあ、誰の種だ?
結婚できない奴か!?

何で結婚しないんだよ!

なっちゃん……また、俺みたいな阿呆な男に惚れて、尽くして、捨てられたんだろうか。

「まるで七面相だな。赤くなったり青くなったり。」
小門にそう揶揄されて、俺は小さく咳払いした。

「まあ、そういうことだから、住みやすそうなイイ部屋、頼むよ。本当は1人にしたくないんだけどな。イロイロ心配で。でも今さら、お前の部屋に置いてやれ、とは言えないし……毎日、様子見に行くしかないか。」

「お前が!?何で?」
「……マスター、キャラ変わってるから。なっちゃんのことになると、ほんと、素に戻るよな。」
笑われても、俺は何も言えなかった。

さすがに自覚してる。
俺にとって、とっくの昔っから、なっちゃんは特別な存在だったことを。
……気づくの遅過ぎだけど。

「小門。マジで、何で?なっちゃん、そんなに……ほっとけないような状態なのか?」

言葉にすると、悪い想像が頭の中にどんどん生じて、クラクラしそうになった。
じ、自殺未遂とかしそうな感じ?

小門は、ゆらっと顔を歪めた。
「俺が妊婦にトラウマ持ってるのまで忘れたわけ?友達甲斐ない奴。……仕事も辞めて来るのに……1人で鬱々と泣いてたらかわいそうだろ。」

トラウマ……そういえばそうだったな。
そんなことにも思い至らなくなるほど、俺は自分を失っているらしい。

「妊婦と言えば、頼之くん!」
慌てた俺はさらに墓穴を掘ってしまった。

「……どうして、妊婦と頼之くんがつながるんだ?」
怪訝そうに小門に聞かれて、俺は自分の失言を呪った。

「いや……頼之くん……インターハイも終わったし……これで、彼女とゆっくりデートとかできるのかな~……なんて……」
しどろもどろにそう言った。

……言えない。
頼之くんがずっと好きだった子が、つい数日前に店に来て「妊婦」と自称したことを、小門にだけは!
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