カフェ・ブレイク
いや、待てよ。
……何かがおかしい。
違う形のピースを無理やりはめ込んだパズルのように、そこだけ違和感がありすぎる。

「もしかして……」

頼之くんは、不敵に笑った。
「シングルマザーになんか、絶対させませんよ。俺が父親になります。血は繋がってなくても、俺の子として認知もします。一生、俺が守る。」

……頼之く~ん?……マジ? 
君、かっこよすぎだよ……

俺は、23も年下の男の子を惚れ惚れと見た。


「マスター、俺、父にお礼の電話がしたいんやけど、どこにかけたらいいか、聞いてみてくれん?」
帰り際に、頼之くんは俺にそう頼んだ。

「お礼って……」
「わざわざ遠くまで来てくれたから。」
照れくさそうな頼之くんがかわいかった。

「あいつ、喜ぶよ。携帯の番号、教えるよ。平日の日中なら問題ないだろ。」
俺はすぐに自分のスマホから小門の番号を書き出して、頼之くんに手渡した。

「ありがとう。」
「……でも、土日と夜はやめてやってくれる?あいつ、殺されるから。」

冗談のつもりでそう言ったのだが……頼之くんは俺をジッと見てから、ため息をついた。
「わかった。……父は幸せなヒトですね。結局、父の選択は間違っとらんかったのかな。」

はあ!?

「どこが!?俺から言わせれば、間違いだらけだと思うけど。」
思わずムキになってそう言ったら、頼之くんはちょっと笑った。

「マスターは母と俺に甘いから。……でも、父と一緒にいる女性、中途半端な状況でずっと心変わりしとらんって……情の深いイイ女やと思いますよ、客観的には。」

えええええ!!

俺は、ひたすら絶句した。

わからない。
マジでそんな風に思えない。

「頼之くんの心の広さは、両親譲りだねえ。……そういや、あおいちゃん。彼女もめちゃくちゃ綺麗だけど……きっつい子だったよね。」
俺のぼやきを頼之くんは鼻で笑った。

ふっ……て!

「また寄るよ。じゃあね。ありがとう。」

……何だ?頼之くんのあの余裕っぷりは。
俺より頼之くんのほうがずっと大人じゃないか。

参ったな……。
無駄に歳くってるだけで、俺はいつまでも身勝手なガキのまんまなのかもしれないな。
嫌でもそんな風に思わされてしまった。


翌日のお昼前に小門が来店した。
「いらっしゃいませ。……電話、かかってきましたか?」
ニッコリと営業スマイルでそう聞いた。

「ああ。……ありがとう。」
小門はそう言って、口をつぐんだ。

どうやら感涙してしまいそうなようだ。

俺も黙って小門のコーヒーを入れた。
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