カフェ・ブレイク
翌朝、いい香りで目覚めた。

ぐあっ……体の節々が痛い。
枕元のポカリを飲んで、喉を潤す。
けっこう汗をかいてるので、下着とパジャマを着替えてから寝室を出た。

なっちゃんが鼻歌まじりで楽しそうに鍋をかき混ぜていた。
「おはよ。」
「え!?あ!おはようございます!おかげんいかがですか?」
「……どうだろ。昨日ほどの熱はないと思うけど、体中が痛いわ。何、作ってんの?」
「中華粥風の雑炊ですね。生姜いっぱい入れたから、体、あったまりますよ。」
なっちゃんは、そう言ってニコニコしてた。

「旨そう。……なっちゃん、料理するんだねえ。何か、意外。」
キッチンカウンターの椅子に座って、肘を枕にして頭を預ける。

「意外ですか?……母が料理とか家事一切できない人なので、ココに引っ越してからは全部私がやってるんですよ。」
なっちゃんの微笑に影が落ちた。

……そうなんだ。

「ふぅん。いつでも嫁に行けるね。そういや、大学も家政学部だっけ?」
あくまで他人事として、そう褒めた。

なっちゃんは、首を傾げた。
「章(あきら)さんまでそんなこと言うんですね。……母にそんな風に言われ続けて、私は逆にうんざり。この4年間で色々と資格を取って、独りで生きていける基礎を準備するつもりです。」

驚いて顔を上げた。
……確かに、なっちゃんはもはや中学生の女の子じゃなくて、春から大学生の女性なんだ、と改めて認識した。

「どうぞ。熱いから、気をつけて召し上がれ。」
なっちゃんがそう言って、大きめのお碗にちりれんげを付けて出してくれた。

「いただきます。」
……なるほど、これは旨そうだ。
白濁した鶏がらスープで柔らかくご飯が煮込まれている。
具材は、鶏肉、海老、生姜、干し椎茸、刻んだザーサイ。

やばいな。
なっちゃんの料理、もっとイロイロ食べてみたくなる。

「美味しいけど、材料費、けっこうかかってない?これ。」
そんな言い方で、絶賛を避ける自分の幼稚さが情けない。

「いいえ!ココとうちにあったものばかりです。……あ、鶏がらは買いました。70円。」

……70円。

ダメだ。
腹の底からこみ上げてくる笑いと、心地よさに、俺の理性は負けた。

「胃袋をつかまれる、って、こういうことを言うんかな。」

なっちゃんは、目を見開いて、両手で口元を覆った。 
……かわいい。

ほだされる。

やばい。

やばい。

やばい。
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