カフェ・ブレイク
なっちゃんはしげしげと俺を見た。
「……章さんって、こんな……駄々っ子でしたっけ。ワガママだけどもっとオトナかと思ってたんですけど。」

小門が、肩をふるわせて笑いながら言った。
「オトナ、ではないかも。40超えてパラサイトシングルみたいなもんだし。」

うっせーよ。
結婚してることがそんなに偉いのかよ!

……とは、さすがにお客さまの手前、言えず……
「……ただの加齢臭が気になるオッサンだよ。」
と自虐的に言うしかできなかった。

くそ~~~~。

「まあ、マスターは今夜はそれどころじゃないだろ。ちゃんとおばさんと相談しておいて。なっちゃんを預けるのはそれからだ。」
小門の態度がカチンとくる。

「まるで保護者だな。」
悔し紛れにそう言うと、小門はますます尊大に言った。

「言ったろ?玲子はマジで養子縁組も視野に入れてる。」
「え……」

絶句するなっちゃんに、小門はニッコリ笑いかけた。
「大丈夫。悪いようにはしないから。じゃ、行こうか。」
小門は千円札を置いて、なっちゃんが席から立つのに手を貸してやった。

お前が触るな!

「あ、ありがとうございます……」
蚊の鳴くような声で、真っ赤になったなっちゃんは小門に礼を言った。

むかつくむかつくむかつくー!!!

頭から湯気が出てるんじゃないかってぐらい、俺はカッカカッカして2人の背中を睨んで見送った。

「……ダークホース登場やな。マスター、ツレに彼女奪われっぞ。」
お客さまがわざわざカウンターに移動してまで、そう言いに来た。


夜。
店を閉めてから帰宅すると、俺の部屋に母親が来ていた。
「玲子ちゃんから聞いたわ……」
「……ふぅん?何を?……俺、何も聞いてないんだけど。」

母は、別に俺に夕食を準備してくれてることもなく、ソファの肘掛けにもたれるように座っていた。
「夏子さんのことよ!かわいそうに……玲子ちゃん、自分のことを思い出しちゃったのね……泣いてたわ。」

「……へえ。」
と、俺は無感動に相づちをうった。
絶対嘘泣きだろ、それ。

「私、前に言ったわよね……あんたには夏子さんが最後のチャンスだって。つくづく、あの時に、もう少し踏ん張ってたら……って思うと、何かもう、情けなくって、私も泣いちゃったわよ。」
母親はそう言って、鼻をすすった。

……情けないって……。

「俺、腹減ってるから、夕食作るけど……」
「私のも作って。泣きすぎて胸がいっぱいで食べられなかったんだから!」
「……はいはい。」
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