カフェ・ブレイク
適当に調理して、母と一緒に喰う。

「章の料理は美味しいんだけど、なんてゆーか、気取ったカフェ飯?……また食べたいとか、毎日食べたいって思わないのよね。」
ぺろりと平らげておいて、そんなことを言う母親に苦笑する。

「……なっちゃんの料理は、毎日毎食、楽しみだよな。わかるよ、言いたいこと。」
俺の言葉に、母はグッと詰まって、シクシクと泣き出した。
「諦めてたのに……とっくに、もう、諦めてたのに……どうしてこんな……今になって……」

母の涙の理由がわからず、俺はぼんやりと見ていた。

さすがに、他の男の子供を妊娠したかつての嫁候補は受け入れられない、ってことか。
そりゃそうだよな……。
わかるけど……。

「なあ、母さん。俺……」
「あんたが人並み以上に見た目がよくて、人並み以上の学歴積ませて、人並み以上にモテてるのも知ってたから、ほっといても結婚してくれると思ってたわ……20代の間は。」
俺の言葉を無視して、母親は宙を見てそんなことを言い出した。

「30代になると、あんたが連れ込む女の子が例えどんな子でも長続きしてくれることを願ったわ。でも、夏子さんを逃した時に、全てあきらめたの。孫も。嫁も。」
「……その後も、全く女っ気なかったわけじゃないのに?普通は、年齢が上がればもう嫁いで来てくれるなら誰でもよくなるんじゃないの?」

まさか自分が親に絶望されてたとは思わなかった。
ふてくされてそう聞くと、母親はため息をついた。

「最高のお嫁さんの夢を見たのよ。……次にどんな女の子が来ても、絶対夏子さんと比べてしまうわ。無い物ねだりするのって、虚しいでしょ。だから、望むのやめたの。お見合いも全部断ってきた。」

……あったんだ、見合いの話。
そんなの聞いたことなかった。

母親は、眼を閉じてしばし黙っていたけれど、顔を上げると俺を見て口を開いた。
「あんたが気まずいのもわかるし、今さらあんたに無理強いするつもりもない。期待もしない。章が関わりたくないって言うなら、私も別のマンションに引っ越してもいい。……私、夏子さんと一緒に住むから。」

……え?
そっち!?

俺は、半ば呆然と突っ立っていた。
「……何だよ、それ。母さん……俺よりなっちゃんのほうが大事みたいに聞こえる。」

別に拗ねてそう言ったわけじゃないのだが、母親にはそう聞こえたらしい。

「……あんたって……ほんっとに……馬鹿ね。」
と、泣かれてしまった。
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