カフェ・ブレイク
しばらくしてから、俺は恐る恐る言った。
「あのさ、自分でもびっくりしてるんだけど、俺、なっちゃんとまた一緒にいたいって思ってる。だから、母さんじゃなくて、俺の部屋に入れたい。そのほうが、なっちゃんも慣れてるからくつろげるだろうし。」

母親にこんなことを言うのはすごく照れくさかったけど、俺にしてはがんばったつもりだった。

が、母はため息をついた。
「……あんた、いくつ?いつまでそんなけじめのないこと言ってるの?もう……情けない。」

また、情けない、って言った……。

「41歳。今さら、女と住むのに、誰の許可もいらないだろ。」
ムッとしてそう言うと、母は怒りの形相で立ち上がった。

怒鳴られる!

ビクッとして目を閉じたけど……いつまでたっても静かだ。
そっと目を開けると、母はがっくり肩を落として、部屋を出て行こうとしていた。

え?
何で!?

「母さん?」
慌てて声をかけると、母は振り向きもせず静かな声で言った。

「……これ以上、失望させないでくれる?……私も玲子ちゃんも、夏子さんを便利なペットぐらいにしか考えてないあんたに預ける気はないから。」

……俺は、一言も言い返せなかった。




数日後の夕方、なっちゃんが1人で店に来た。
常連さんが生温かい目で見守っているのをヒシヒシと感じながらも、営業スマイルで応対する。
「いらっしゃいませ。」

「こんにちは。あの、荷物を入れさせていただきました。ありがとうございます。」
なっちゃんは席につくなり、そうお礼を言った。

でも、別に、俺、関係ないし……。

「お引っ越し、終わったんですね。お疲れ様です。」
なるべく普通に言ってるつもりなんだけど、やっぱり拗ねてるように聞こえた……自分でもそう聞こえるんだから、本当に拗ねてるんだろうけど。

なっちゃんは苦笑した。
「ほとんどの荷物は業者さんが空き部屋に入れてくださったので、私は何も。お母様も玲子さんも手伝ってくださったし。」
「……そうですか。」

結局、俺を完全に無視して、玲子と母の思い通りに事は運んだ。
なっちゃんはタワーマンションの最上階の住人となった。

「まるでラプンツェルですね。」
俺の皮肉に、なっちゃんは首を振った。

「自由にさせてもらってますよ。こうして外出もできるし。」
「逃げ出すのはお得意ですもんね。」

心ないことを言ってしまった。

……てゆーか、傷つけたくて俺はわざとそんな言い方をした。

我ながら、幼稚すぎる……好きな子に反応してほしくて怒らせたり泣かせたり……俺って、ほんと、馬鹿なのかも。
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