カフェ・ブレイク
「……玲子さんにも言われました。」
え?
驚いて顔を上げると、なっちゃんは瞳に涙をいっぱい溜めて俺を見て、無理矢理ほほ笑んだ。
「逃げ癖を直さない限り幸せになれない、って、叱られました。」
なっちゃんは相変わらず玲子が好きらしい。
まあ、玲子は、俺のような意地悪じゃなくて、ちゃんとなっちゃんの為を思ってアドバイスしたんだろうけど……結果的に、玲子のおかげで俺の悪態は緩和されたらしい。
「みんな優しくて……感謝しかありません。」
なっちゃんはそう言って、店内の常連さん達にもぐるりと会釈した。
厳選したデカフェ豆で丁寧に入れたコーヒーを幸せそうに飲むなっちゃん。
「そういえば、京都で美味しいコーヒーの飲めるお店を教えてもらったんですけどね、2度めに訪ねたらお店が閉まってて……それっきり閉店しちゃいました。漂ってる空気がココに似てるように感じたんですけどね。小さいけど、アンティークのゴージャスな空間で……素敵だったんだけどなあ。」
「京都は古い店がいくつも残ってますからね。私も何軒かお邪魔しましたよ。ソワレ、フランソア、イノダ、進々堂、築地、静香、クンパルシータ、」
「クンパルシータ!」
なっちゃんがうれしそうに指摘した。
「ああ、クンパルシータですか。懐かしいな。……そうですか、閉店しちゃいましたか。まあ、しょうがないか。後継者なしでよくがんばられましたよね、マダムも。」
店内の赤いビロード張りの椅子や、腰の曲がったマダムの赤い口紅と黒いドレス……懐かしい異空間を思い出すと、あのコーヒーが飲みたくなった。
「私の祖父も好きでしたよ、マダムの入れたコーヒー。とろりと濃いのに、甘くて美味い……まるで媚薬のようなコーヒーでしたね。」
なっちゃんはクスクスと笑い出した。
「私はね、味よりも、コーヒーが出てくるまでに恐ろしく時間がかかることで有名って聞いて行ってみたんですよ。そしたら本当に!お店に入ってからお水を持ってきてくださるまでに5分、注文を聞いてくださるまでにさらに10分、実際にコーヒーが運ばれて来たのはそれから40分後でした。そこまで待たされても腹が立たないんですよね……あの空間と、店内に流れるタンゴと、極上のコーヒー……懐かしいです。」
約1時間?
そういや、マダム、認知症って聞いた気がする。
……よくおとなしく待ってたな……
いや、イライラしない相手と一緒だったってことか。
……男か……。
お腹の子の相手?
クンパルシータに連れてくなんて、年配のおっさんじゃないか?
イロイロ悶々としたけれど、俺は顔に笑顔を貼り付けて流した。
いちいち追及できる立場じゃないからな。
……卑屈になってるな、俺。
くそぉ。
え?
驚いて顔を上げると、なっちゃんは瞳に涙をいっぱい溜めて俺を見て、無理矢理ほほ笑んだ。
「逃げ癖を直さない限り幸せになれない、って、叱られました。」
なっちゃんは相変わらず玲子が好きらしい。
まあ、玲子は、俺のような意地悪じゃなくて、ちゃんとなっちゃんの為を思ってアドバイスしたんだろうけど……結果的に、玲子のおかげで俺の悪態は緩和されたらしい。
「みんな優しくて……感謝しかありません。」
なっちゃんはそう言って、店内の常連さん達にもぐるりと会釈した。
厳選したデカフェ豆で丁寧に入れたコーヒーを幸せそうに飲むなっちゃん。
「そういえば、京都で美味しいコーヒーの飲めるお店を教えてもらったんですけどね、2度めに訪ねたらお店が閉まってて……それっきり閉店しちゃいました。漂ってる空気がココに似てるように感じたんですけどね。小さいけど、アンティークのゴージャスな空間で……素敵だったんだけどなあ。」
「京都は古い店がいくつも残ってますからね。私も何軒かお邪魔しましたよ。ソワレ、フランソア、イノダ、進々堂、築地、静香、クンパルシータ、」
「クンパルシータ!」
なっちゃんがうれしそうに指摘した。
「ああ、クンパルシータですか。懐かしいな。……そうですか、閉店しちゃいましたか。まあ、しょうがないか。後継者なしでよくがんばられましたよね、マダムも。」
店内の赤いビロード張りの椅子や、腰の曲がったマダムの赤い口紅と黒いドレス……懐かしい異空間を思い出すと、あのコーヒーが飲みたくなった。
「私の祖父も好きでしたよ、マダムの入れたコーヒー。とろりと濃いのに、甘くて美味い……まるで媚薬のようなコーヒーでしたね。」
なっちゃんはクスクスと笑い出した。
「私はね、味よりも、コーヒーが出てくるまでに恐ろしく時間がかかることで有名って聞いて行ってみたんですよ。そしたら本当に!お店に入ってからお水を持ってきてくださるまでに5分、注文を聞いてくださるまでにさらに10分、実際にコーヒーが運ばれて来たのはそれから40分後でした。そこまで待たされても腹が立たないんですよね……あの空間と、店内に流れるタンゴと、極上のコーヒー……懐かしいです。」
約1時間?
そういや、マダム、認知症って聞いた気がする。
……よくおとなしく待ってたな……
いや、イライラしない相手と一緒だったってことか。
……男か……。
お腹の子の相手?
クンパルシータに連れてくなんて、年配のおっさんじゃないか?
イロイロ悶々としたけれど、俺は顔に笑顔を貼り付けて流した。
いちいち追及できる立場じゃないからな。
……卑屈になってるな、俺。
くそぉ。