カフェ・ブレイク
「じゃ、そろそろ帰ります。マスター、夕食、ご希望ありますか?」
「え?……俺にも作ってくれるの?」
やばい。
思いっきり顔がにやける。
「ええ。お母様は何でもいいって仰ってるので。」
「じゃあ、茄子の田楽。」
「……ゆず味噌?赤味噌?両方?」
「両方!」
なっちゃんはニッコリ笑ってうなずいた。
「お店を閉めたら、まっすぐお母様のお部屋にいらしてくださいね。」
そう言い置いて、なっちゃんはスーパーへと向かった。
……やばい。
これから毎日こんな風に、なっちゃんの飯を食えるようになるのか?
俺、既に完全に餌付けされてるのに……
閉店間際に頼之くんがやって来た。
「マスター、こんばんは。ちょっとお願いがあるねんけど、いい?」
「いらっしゃいませ。どうぞ。どうしたの?」
珍しいな。
頼之くんは言いにくそうに聞いてきた。
「あおいが、コーヒーとか紅茶とか普通に飲んでて……1日1杯やったら問題ないって言うねんけど……普通の妊婦って、もうちょっと気ぃ遣わん?」
あ~~~……。
「何となくわかる。彼女、1人でココに来て飲んでた。」
まあ、彼女だけじゃなくて、妊婦さんでも飲むヒトもいるけど……あおいちゃんは無頓着かもしれない。
「カフェインレスのデカフェコーヒーも一応試したけど気に入らんらしくて。……半分だけカフェインレスの豆を混ぜてもバレへんようなブレンドって、できひん?」
「バレへん……って……あおいちゃんに内緒で飲ませるの?……頼之くん……苦労しそうだね、なんか。」
頼之くんの気の遣いっぷりに、俺は本気で驚いた。
「……しょうもないことであおいのストレスを増やしたくないねん。」
「あおいちゃん、イライラしてるんだ?かわいそうに。」
「かわいそうやで。親とうまくいっとらんし、最愛の男は癌で死んでしもたし。……情緒不安定になっとってもしょうがないやろ。」
頼之くん沈鬱な顔でそう言って、ため息をついた。
……重い……。
何だ、それは。
まだ若いのに、ヘヴィー過ぎるだろ。
「……お腹の子のお父さん、亡くなったってこと?」
頼之くんの顔がちょっと歪んだ。
「ああ。胃癌。呆気ないもんやな、人間。俺と同い年で。」
胃癌……若いのに……。
いや、若いから進行が早いのか。
言葉を失った俺は、気を取り直してコーヒーの準備をし始めた。
頼之くんはしばらく黙っていたけれど、ため息をついてから、力強く言った。
「生きてる間にできることせんと、な。」
俺はちょっと胸が熱くなった。
何を成すわけでもなく、ただこうして日々を過ごしている俺より、頼之くんがオトナなわけだ。
幼少時から小門の代わりに真澄さんを守ろうと背伸びをし、今またこうしてあおいちゃんとお腹の子を背負うとしてる。
それに引き替え、俺は……。
「え?……俺にも作ってくれるの?」
やばい。
思いっきり顔がにやける。
「ええ。お母様は何でもいいって仰ってるので。」
「じゃあ、茄子の田楽。」
「……ゆず味噌?赤味噌?両方?」
「両方!」
なっちゃんはニッコリ笑ってうなずいた。
「お店を閉めたら、まっすぐお母様のお部屋にいらしてくださいね。」
そう言い置いて、なっちゃんはスーパーへと向かった。
……やばい。
これから毎日こんな風に、なっちゃんの飯を食えるようになるのか?
俺、既に完全に餌付けされてるのに……
閉店間際に頼之くんがやって来た。
「マスター、こんばんは。ちょっとお願いがあるねんけど、いい?」
「いらっしゃいませ。どうぞ。どうしたの?」
珍しいな。
頼之くんは言いにくそうに聞いてきた。
「あおいが、コーヒーとか紅茶とか普通に飲んでて……1日1杯やったら問題ないって言うねんけど……普通の妊婦って、もうちょっと気ぃ遣わん?」
あ~~~……。
「何となくわかる。彼女、1人でココに来て飲んでた。」
まあ、彼女だけじゃなくて、妊婦さんでも飲むヒトもいるけど……あおいちゃんは無頓着かもしれない。
「カフェインレスのデカフェコーヒーも一応試したけど気に入らんらしくて。……半分だけカフェインレスの豆を混ぜてもバレへんようなブレンドって、できひん?」
「バレへん……って……あおいちゃんに内緒で飲ませるの?……頼之くん……苦労しそうだね、なんか。」
頼之くんの気の遣いっぷりに、俺は本気で驚いた。
「……しょうもないことであおいのストレスを増やしたくないねん。」
「あおいちゃん、イライラしてるんだ?かわいそうに。」
「かわいそうやで。親とうまくいっとらんし、最愛の男は癌で死んでしもたし。……情緒不安定になっとってもしょうがないやろ。」
頼之くん沈鬱な顔でそう言って、ため息をついた。
……重い……。
何だ、それは。
まだ若いのに、ヘヴィー過ぎるだろ。
「……お腹の子のお父さん、亡くなったってこと?」
頼之くんの顔がちょっと歪んだ。
「ああ。胃癌。呆気ないもんやな、人間。俺と同い年で。」
胃癌……若いのに……。
いや、若いから進行が早いのか。
言葉を失った俺は、気を取り直してコーヒーの準備をし始めた。
頼之くんはしばらく黙っていたけれど、ため息をついてから、力強く言った。
「生きてる間にできることせんと、な。」
俺はちょっと胸が熱くなった。
何を成すわけでもなく、ただこうして日々を過ごしている俺より、頼之くんがオトナなわけだ。
幼少時から小門の代わりに真澄さんを守ろうと背伸びをし、今またこうしてあおいちゃんとお腹の子を背負うとしてる。
それに引き替え、俺は……。