カフェ・ブレイク
「どうぞ。」
丁寧に入れたカフェインレスのコーヒーを頼之くんに出した。
頼之くんは一口飲んで、違和感を覚えたらしい。
「口に合わなかった?」
「……いや……おいしいねんけど……いつもと違うん?これ。」
「うん。違う豆。それも、カフェインレスのデカフェ豆なんだけどね。どう?」
「嘘!マジで!?……うまいわ。」
頼之くんは、改めて香りを嗅いでから、口に含み味を確かめた。
「うん。おいしい。これ、ほんまにカフェイン99%除去できとるん?すごいやん!」
「よかった。それなら、あおいちゃんも飲んでくれるんじゃない?」
なっちゃんが美味しいって気に入ったんだ……大丈夫だろう。
そう確信して俺は豆を袋に小分けした。
「ありがとう。」
頼之くんはうれしそうに、受け取った。
いい気分で後片付けをしながら頼之くんとおしゃべりして、一緒に店を出たのは……19時50分。
通常の閉店時間を1時間近く過ごしてしまった。
頼之くんの背中を見送ってから、慌ててマンションへ帰る。
「遅い!ご飯冷めるし、先に食べたわ!」
母親がプリプリと怒って出迎えた。
「ごめん。」
でもなっちゃんは待っていてくれたらしい。
「せっかく土鍋で炊いたから、炊きたてを食べて欲しかったのにぃ。」
そう言いながら、出してくれたのは生姜ご飯。
「いや、美味いよ。まだ温かいし。あれ?茄子ってこれ!?米茄子?」
てっきり普通の茄子だと思ってたら、でかくて丸い。
「賀茂茄子ですよ。身がしっかりしてて味も濃いから美味しいんです。」
「……京都かぶれ、かよ。うぜぇ。」
ついそんな風に言ったら、なっちゃんは半泣きになり、母親には叩(はた)かれた。
「やっぱり2対1は分が悪いわ。すぐ俺が悪者になる。」
数日ぶりにやって来た小門につい愚痴ってしまうほど、俺は新しい生活スタイルに戸惑っていた。
「うまくやってんだな。おばさんとなっちゃんは。よかったよかった。」
「仲良すぎだ。俺が居心地悪すぎる。」
そうぼやくと、小門はちょっと笑った。
「あくまでマスターはビジターなんだろ?飯を食いに来るだけの。」
「……そうらしい。」
つまり、朝晩なっちゃんに会えるし、なっちゃんの飯も食える。
けど、常にそばに母親の目が光ってるから、手を出すことはおろか、会話にも気を遣う。
「生殺しにされてる気分。」
「……マスター、妊婦にナニする気だよ……」
小門の呆れた口ぶりに、ちょっと恥ずかしくなった。
……いや、だって……
「俺、なっちゃん、好きだもん。」
さらっとそんなことを言ってしまった。
小門もびっくりしてたけど、俺もびっくりした。
歳を取ると恥らいがなくなるのか……それとも、開き直ってるのか……
はは……と、小門が乾いた声で笑った。
丁寧に入れたカフェインレスのコーヒーを頼之くんに出した。
頼之くんは一口飲んで、違和感を覚えたらしい。
「口に合わなかった?」
「……いや……おいしいねんけど……いつもと違うん?これ。」
「うん。違う豆。それも、カフェインレスのデカフェ豆なんだけどね。どう?」
「嘘!マジで!?……うまいわ。」
頼之くんは、改めて香りを嗅いでから、口に含み味を確かめた。
「うん。おいしい。これ、ほんまにカフェイン99%除去できとるん?すごいやん!」
「よかった。それなら、あおいちゃんも飲んでくれるんじゃない?」
なっちゃんが美味しいって気に入ったんだ……大丈夫だろう。
そう確信して俺は豆を袋に小分けした。
「ありがとう。」
頼之くんはうれしそうに、受け取った。
いい気分で後片付けをしながら頼之くんとおしゃべりして、一緒に店を出たのは……19時50分。
通常の閉店時間を1時間近く過ごしてしまった。
頼之くんの背中を見送ってから、慌ててマンションへ帰る。
「遅い!ご飯冷めるし、先に食べたわ!」
母親がプリプリと怒って出迎えた。
「ごめん。」
でもなっちゃんは待っていてくれたらしい。
「せっかく土鍋で炊いたから、炊きたてを食べて欲しかったのにぃ。」
そう言いながら、出してくれたのは生姜ご飯。
「いや、美味いよ。まだ温かいし。あれ?茄子ってこれ!?米茄子?」
てっきり普通の茄子だと思ってたら、でかくて丸い。
「賀茂茄子ですよ。身がしっかりしてて味も濃いから美味しいんです。」
「……京都かぶれ、かよ。うぜぇ。」
ついそんな風に言ったら、なっちゃんは半泣きになり、母親には叩(はた)かれた。
「やっぱり2対1は分が悪いわ。すぐ俺が悪者になる。」
数日ぶりにやって来た小門につい愚痴ってしまうほど、俺は新しい生活スタイルに戸惑っていた。
「うまくやってんだな。おばさんとなっちゃんは。よかったよかった。」
「仲良すぎだ。俺が居心地悪すぎる。」
そうぼやくと、小門はちょっと笑った。
「あくまでマスターはビジターなんだろ?飯を食いに来るだけの。」
「……そうらしい。」
つまり、朝晩なっちゃんに会えるし、なっちゃんの飯も食える。
けど、常にそばに母親の目が光ってるから、手を出すことはおろか、会話にも気を遣う。
「生殺しにされてる気分。」
「……マスター、妊婦にナニする気だよ……」
小門の呆れた口ぶりに、ちょっと恥ずかしくなった。
……いや、だって……
「俺、なっちゃん、好きだもん。」
さらっとそんなことを言ってしまった。
小門もびっくりしてたけど、俺もびっくりした。
歳を取ると恥らいがなくなるのか……それとも、開き直ってるのか……
はは……と、小門が乾いた声で笑った。