カフェ・ブレイク
「とりあえず、ソレ、伝えたら?まあ、一歩ずつでいいんじゃない?……なっちゃんも、京都の男を忘れるのに時間かかるだろうし。」

京都の男……。

今まで考えないようにしてたのに、改めてそう言われて俺は落ち込んだ。
「……どんな奴?聞いてる?」

恐る恐るそう聞くと、小門はためらいを見せた。
「玲子は聞いたらしい。……なっちゃん本人に聞いたほうがいいと思う。」

……聞けない。
つくづく、ヘタレだな……俺。

その夜。
母親の部屋で、なっちゃんと3人で夕食を取りながら、俺は聞いてみた。
「なっちゃん、予定日、いつ?」

「2月11日です。」
……あおいちゃんより3ヶ月ほど先なのか。

「そろそろお腹も膨らんでくるし、腹帯もらいに行かないとね。水天宮さんにお詣りしましょうか。」
母親がニコニコとそう言った。

「中山寺じゃないの?」
有名なのは宝塚の中山寺だろう。

「遠いわよ。……じゃあ、水天宮さんには私と行って、中山寺には章(あきら)に連れて行ってもらう?」
母の言葉に、なっちゃんはパッとこっちを見た。

「……でも、章さん、お店あるし……1人で行けますよ?」
口ではそう言いながらも、なっちゃんの目は俺を求めているように感じた。

ようやく2人きりになれるチャンスだ。

「休むよ。久しぶりに、ドライブしよ。」
「……はい。お願いします。」
何となく、3人とも、ホッとしたような空気になった。

……なんだ。
別に、母は俺となっちゃんに反対してないし、なっちゃんも俺を避けてない。

俺は、やっと少し安堵した。


食後のお茶を飲んでると、宅配便が届いた。
受け取ったなっちゃんの様子が一転した。

「誰から?」
俺の問いに、なっちゃんはビクッと反応した。

「……あの、京都でお世話になったかたです。」
京都、と聞くだけで、俺の心がねじくれた。



せっかくのいい気分は、京都からの小包1つで霧散した。

「へえ。お腹の子の父親から?逃げてきたって聞いてたけど……。より、戻すの?」
「章(あきら)っ!!」
母の声が鋭く飛んできた。

首をすくめて、なっちゃんを見る。
なっちゃんは、泣くかと思ったけど、悲しい顔になっただけで涙を見せなかった。
「お母様、大丈夫です。……章さんにまだ何も言ってないんです。」

俺のほうを向いて、なっちゃんは背筋を伸ばして言った。
「……送り主は、お腹の子の祖父にあたるかたです。唯一、何もかもご存じで、逃げて来るのにも協力してくださいました。」

どういう意味だ?
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