カフェ・ブレイク
「結婚に反対して、息子から遠ざけたってこと?」
イライラしてきた。

「……いえ。一度も反対されたことはありません。私のワガママで、逃げてきました。」
淡々と語るなっちゃんの心が見えない。

「どんな男なんだよ、それ。逃げなきゃいけない相手って!既婚者?ヤクザ?DV?」
俺は、たぶん京都の男に嫉妬していた。

クンパルシータで1時間コーヒーを待ってても楽しくて、なっちゃんの身体を何年も自由に味わって、生で中出しまでしやがって……ムカつくどころの話じゃない……憎悪すら感じる。

なっちゃんは、ため息をついた。
「……そんなんじゃありません。」
そのまま沈黙が続いた。

「ねえ。お菓子でも送ってくださったかもよ?開けてみたら?」
そわそわしてる母をちょっと睨む。

「……だって……引っ越しの荷物にも、いろいろお心遣いくださってたし……ねえ?」
母の言葉になっちゃんは苦笑してうなずいた。
「本当に、いつも申し訳ないぐらい気遣ってくださるんです。……『あしながおじさん』みたいに。」

いそいそと母は段ボール箱を開けるために鋏を持ってきた。
段ボール箱の中には、なるほど、イロイロ入っていた。

チョコレート、マカロン、竹に入った水ようかん、豆大福、カフェインレスの紅茶各種、お漬け物、味噌……安産祈願と書かれた白い袋。

「わら天神の……腹帯とお守り……」
安産祈願の袋の中を見て、なっちゃんはポロポロと涙をこぼした。

……胸が締め付けられる……苦しい。

「本当に、応援してくださってるのね……」
母ももらい泣きし出した。

たまらない。

俺は、いたたまれず、その場を離れた。
敗北感でいっぱいだ。

……いや、相手は京都の男じゃなくて、その父親なんだろうけど、それにしても……敵わない、と思った。

自分の気持ちを伝えるどころか、なっちゃんを責めたり追い詰めたり……苛立ちをぶつけるしかできない俺。
情けなさ過ぎるだろ。


しばらくして、俺の部屋になっちゃんが訪ねて来た。
「……『ふたば』の豆大福。一緒に、食べませんか?」
お盆には、2種類の豆大福が2つずつと、麦茶のグラスが2つ。

……なっちゃんは、あおいちゃんと違って、ちゃんとカフェインにも気を遣ってるんだなあ……と、当たり前のことにすら切なくなった。

お腹の子がそんなに大事か?
好きな男の子供だから?

じゃあ、何で、逃げて来るんだよ。
よく気の利く、すばらしい舅までいて……何が不満なんだよ。

姑が怖いのか?
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