カフェ・ブレイク
「わかりました。マスター。また来ていいですか?」
ひらりとセーラー服の紺サージのスカートを翻して、なっちゃんは椅子から降りた。

「もちろんです。またのお越しをお待ちしています。暗くなる前に、真っ直ぐ帰ってくださいね。」
深々と頭を下げて、なっちゃんを見送った。


大瀬戸(おおせと)さん、つまりなっちゃんのお母さんは、確か離婚して芦屋の豪邸を出てきたと聞いた。
お父さんの浮気が原因なので、なっちゃんもお母さんについてきたのだが、その際にお嬢様学校を辞めて公立中学校に転校したらしい。
中学3年生なのに真新しいセーラー服の白いリボンが眩しかったな。

……てゆーか、小門の話をどんな気持ちで聞いていたのだろう。
つらい想いをしていなければいいけれど。


店を閉めて帰り着いたのは、「エステート古城」の最上階。
両親は現在「シーサイド古城」の最上階に住まっているので、俺は優雅な独り暮らしをしている。
学生の間はそれなりに遊んできたけれど、今は……。

生ぬるい夜の風を受けながら、ため息をついた。
あのヒトは今頃どうしてるだろうか。
泣いてはいないだろうか。
明日は……来てくれるだろうか。



翌日も待ち人は来なかった。
15時頃から騒がしい高校生がやってくる。
身体ばかりが発達した、頭の空っぽの女の子達。
つまみ食いする気にもなれない自分に苦笑する。
……枯れてないか?俺。

「ねー。マスター。夜、飲みに行こうよー。」
「ここでバイトしたげようか?メイドの格好で。」
「えー!やらしー!キャーッ!」

カウンターでクリームソーダやチョコレートパフェを食べながら、かしましく話しかけてくる女子高生には、笑顔も固まってくる。

「君たち、未成年でしょう?帰って勉強しなさい。」
至極真面目にそう言っても、悲鳴のように笑い飛ばされてしまう。
わざとBGMのボリュームを上げても、曲に負けないように大きな声で盛り上がる。
老いも若きも女の集団には敵わない。

誰か来ないかな……と、切実に思っていると、17時過ぎに初めて見る顔の妊婦さんが来た。
主婦はたいてい昼間の来店が多いのに珍しいな。
「いらっしゃいませ。」
笑顔で迎えてから、高校生達に言った。

「他のお客さまがいらしたから、お静かにお願いしますね。」

慌てて声のトーンを下げた彼女たちに感謝を伝えてから、BGMも少し下げた。
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