カフェ・ブレイク
「……ちょっと待て。何?その砂糖の量!」
食い終わった食器を洗おうとシンクに立つと、なっちゃんがせっせと砂糖を入れていた。

「それ、もう漬物じゃないじゃん。ピクルス?シロップ漬け?」
驚く俺に、なっちゃんは平然と言った。
「ピクルスもシロップ漬けも、広義ではお漬物じゃないですか?大丈夫ですよ。毎年作ってますから。お楽しみに。」

「……その砂糖の量を見てしまったら、ちょっと怖い。」
どんなモノができるのか、さすがに心配になった。


翌日、開店前に小門が来た。
「取り急ぎ、土産。今週いっぱい年始の挨拶まわりと行事で身動き取れんから、また来週来るわ!」
「ありがとう。コーヒー飲んでけよ。」
「……開店前なのに、悪いな。」
急いで2人分のコーヒーを入れて、一緒に飲んだ。

「なっちゃん、大丈夫かな。」
小門が重い口を開いた。

「何かあんの?」
俺の返答に、小門はばつの悪い顔になった。
「ごめん、よけいなこと言った。気にするな。」

……いやいやいや。
逆に気になるだろ。
何だよ?

「破談にでもなった?」
ついそう聞いてしまった。

小門は眉をひそめた。
「本人に聞いてくれ。……これ以上ボロ出さないうちに、帰るわ。またな。」

おーい?
めっちゃ意味深で気になってしょうがないんだけど?
夕べのなっちゃんを思い出す。
……普通だったよな?
なんなんだ?


その日、なっちゃんは15時頃にやってきた。
よりによって、そんな時間。
他にもお客様が多くて、込み入った話なんかできない。

しばらくして帰ろうとするなっちゃんに、小声で言った。
「店、閉めてから連絡していい?」
なっちゃんはめちゃめちゃびっくりしていたけれど、うなずいてくれた。

「……何か作って待ってましょうか?」
え!いいの!?
一瞬飛びつきそうになったけど、咳払いして首を横に振った。
あんまり甘えてると癖になりそうだ。

閉店後、なっちゃんに電話をした。
「夕食もう喰った?一緒にどこか行かない?」
少しの間のあと、なっちゃんが言った。

『あの……これから夕食なんですけど……少し作り過ぎちゃって……手伝ってもらえませんか?』
やられた。
なっちゃんの手料理を、俺が断れるわけがない。
「……ありがとう。ご相伴に預かります。」

帰宅せずに、そのままなっちゃんの部屋を訪ねた。
「……引越準備、もうはじめてたんだ。」
不自然な空間が多すぎる部屋は、何だか淋しかった。

「まだオフシーズンのものしかパッキングしてませんけどね。空いてるのは、母が婚家に持って行っちゃった部分かしら。すみません、落ち着きませんか?」
なっちゃんに恥ずかしそうにそう聞かれて、俺は慌てて首を横に振った。

「いや。なっちゃんが淋しくないならいいんだ。独りきりで段ボール箱に埋もれてくのはかわいそうだと思って。」

なっちゃんは少し首をかしげて、目を細めた。
「……淋しいですよ。特に夕食。いつも作り過ぎちゃって。章さんにお届けしたかったけど、迷惑かもしれないし遠慮してました。」
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