カフェ・ブレイク
「いいよ。俺の部屋のほうがいいかな。」
……ここじゃ避妊具(ゴム)もないだろう。

俺は自分の部屋の鍵をなっちゃんに渡した。
「それ、あげる。先に帰って汗流しとくから、なっちゃんは後片付けが終わって、決心がついたら訪ねておいで。」

なっちゃんは、俺の鍵を胸元でギュッと握りしめた。
「……でも、章さん、お部屋に入れないんじゃないですか?」
「マスターキーがあるから。じゃ、ごちそうさま。」

逸る心を隠してすましてそう言ったけれど、玄関先で振り返って付け加えた。
「ちょっとでもためらう気持ちがあるなら、やめとけよ。」
なっちゃんの瞳に迷いは見えなかった。

小一時間ほどして、なっちゃんが訪ねて来た。
……謹んで、いただきます。
伏し目がちで少し恥じらってるなっちゃんがメチャクチャ可愛くて……俺は、遠慮なくむしゃぶりついた。
行きずりの女からは得られない、興奮と愛しさが心地よかった。

「あの……灯り、消してください。」
既に裸に剥いてしまってだいぶたってから、なっちゃんは思い出したようにそう懇願した。
「今さら?気にせんでも、綺麗綺麗。いっぱい感じて。すごくかわいい。ずっと見てたい。」

せっかく顔も身体も美しいんだ。
見せてくれ。
もっと、乱れるところを。

余計なことを考えられないように、忙しく責め立てた。
なっちゃんの反応は、新鮮だった。
魚のように跳ね上がるのに、必死で声を殺している。
刺激に戸惑っているようにも見えた。

そういや、正月、旦那は留守だったっけ。
最近ヤッてないのかな……遠距離だもんな……こうしてても、身体に多少の痕をつけてもバレることもないわけか。
調子に乗って、俺はなっちゃんの白い肌に吸い付いた。
紫がかった赤い薔薇のような印が残った。
綺麗だな。



……あれ?



あれあれあれ?

あれ?


……なっちゃん、処女だ。
まさかの状況に愕然とした。

先に言ってくれたら、もっと優しくしてやるのに……。

「……バレちゃいました?」
しばらくして、なっちゃんが言った。

「やってないのに結婚するん?見合いだった?」

いや、今時、見合いでも婚前交渉するだろ?
めっちゃ草食系ってか?

「お見合いではないです。普通に出逢って交際を申し込まれましたから。」

交際を申し込む?
なんか、時代がずれてるというか、大仰しいというか。

「結婚するまで、しないって?……大丈夫?処女じゃなくなったら破談になるんじゃない?」

なっちゃんは顔を歪めた。
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