カフェ・ブレイク
「そうはならないでしょうね。残念ですけど。」

……なんだ~?

「なっちゃん、結婚したくないのに結婚するの?旦那のこと、好きじゃないの?」

俺の質問になっちゃんは、悲しいほほ笑みを浮かべた。
「私が好きなのは、章(あきら)さんだけです。ずっと。」

無意識に喉がゴクッと動いた。
ググッと力が漲る。
無言でなっちゃんをしっかりと抱きしめて身体を起こした。

……うれしくないわけがない。
でも、欺かれたような気がして怒りも感じた。



翌朝、目覚めると、俺になっちゃんがしがみついていた。
……かわいい寝顔なのに、かわいいと認めたくない……そんな気分だった。

昨夜、俺がつけたいくつもの内出血が毒々しく感じる。
一時的に俺のモノとマーキングしてしまった自分に腹が立つ。

なのに、その後もなっちゃんを拒絶することはできなかった。
なっちゃんの作ってくれる食事は本当に美味しかったし、なっちゃん自身も非常に美味しかった……。

相性がいいのかもしれない。
いわゆる、肌が合う、というだけなく、形状も合っているのだろう。

……てか、俺に合わせてどうするんだよ。
それでいいのか?

欺瞞に対する戸惑いと背徳感が、俺をいつも以上に高ぶらせた。
なっちゃんの裏切りを責めて怒りをぶつけるように抱いた。
なっちゃんは悦びながら号泣するようになった。
……それって、どんなに気持ちよくても、後味が悪い。

「もう、やめよう。」
何度も距離を置こうとした。
「蔑んでくださってけっこうです。どうせあとわずかの期間で終わる関係なんだし、いいじゃないですか。今だけ。抱いてください。」

なっちゃんが作る料理には媚薬が仕込んであるのだろうか。
不思議なぐらい、俺はなっちゃんから逃れられなかった。
……完全に、つかまってしまった。

8年間、彼女の想いを無視してきた俺への復讐だったのだろうか。
俺の腕の中で本当に幸せそうに眠るなっちゃんの寝顔を見ていると、何とも言えない庇護欲をかき立てられることもあった。

……直前までさんざん虐めて泣かしたわけだが。

なっちゃんの体を好きに弄んでるようでいて、実のところは、なっちゃんにすっかり翻弄されていたのだろう。
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