カフェ・ブレイク
幸運な花嫁

専業主婦

「まあ~~~~。本当に、幸運な花嫁さんですねえ。こんなに豪華な結婚式、めったにありませんわ。」

初対面のウェディングプランナーにいきなりそう言われてから、私は彼女が苦手になった。
……即物的な発言は苦手だ……私の母がそういうヒトだから。



私が中学生の時、両親が離婚した。
父の浮気が原因だが、私は父だけが悪いとは思っていない。

穏やかで上品な父が愛想をつかすのも仕方ないぐらい、母は拝金主義者なのだ。
典型的な成金の娘で、自分では何もできないくせに、やたらとギラギラしている。

私は正直なところ、母に引き取られたくはなかった。
たとえなさぬ仲の継母と一緒でも、父と暮らしたかった。

でも私が手元にいることで、父から多額の養育費を引き出せるのだ。
母が私を手放すはずはなかった。



……まあ、母と暮らすことになったおかげで、一生モノの恋をした、と思ってる。
父が準備してくれたマンションの大家さんは、古城(こじょう) 章(あきら)さんという大学院を出たばかりの、かっこいいお兄さんだった。
章さんはお顔も整っていたけれど、今時っぽくない髪型と、スマートな佇まいに目を奪われた。
何より、スラリと背が高くて、足が長い!
意外と肩幅はあるので、後ろ姿がまるでタカラヅカの男役のように美しくて……ヅカオタな私は一目で恋に落ちた。

少しでもそばにいたくて、章さんの経営する喫茶店にせっせと通った。
お小遣いどころか、日々の食費までやりくりして、章さんのお店に入り浸った。
章さんは、父に少し似ていた。
経済的にも、ご両親の愛情にも、お友達にも恵まれて育ったヒト特有の、鷹揚で上品な物腰に強く惹かれた。

そんな章さんが、お友達に対しては普通に言葉や態度を崩してらしてるのを見て……いつしか章さんの「特別」になりたい!と強く思うようになった。
でも10年もの年の差があるためか、章さんはいつまでも私を子供扱いしていた。
高校を卒業しても、成人式を終えても、……一線を越えても、ずっと「なっちゃん」としか呼んでくれなかった。



「夏子さん?お疲れですか?」
桜満開の靖国神社での挙式と、造園が趣味だった明治の元勲ゆかりのホテルでの披露宴・二次会を終えてボーッとしていた私に、夫となったヒトが声をかけた。

「いいえ。大丈夫です。郡(こおり)さんこそ、ずいぶん飲まされてたけど……」
「……今日からあなたも郡さんですが、まだそう呼ばれますか?」
ハッとして、口元を押さえた。

「ごめんなさい。そうですね。じゃあ、栄一(えいいち)さん。」
そう呼び直すと、夫は穏やかに微笑した。
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