カフェ・ブレイク
夫がお風呂に入ってる間に、洗い物に取りかかった。
私がゴム手袋をしていたことに、お風呂から上がってきた夫が気づいた。
「どうかしましたか?」

……事実をありのままに言うのは、すこしためらわれた。
「手のひらを擦りむきました。」

それだけ言って終わらせるつもりが、夫はジーッと私を見つめ続けた。
「18時頃、留守電に母の興奮した声が入ってましたが……夏子さんに暴力をふるったのですか?」

驚いて夫を見ると、夫はため息をついた。
「やっぱり。すみません、悪気はないのですが、カッとなると乱暴なところがあって……」

そう言いながら、夫は私の手を取った。
ゴム手袋の下は、防水の透明なフィルムシートを貼っていた。

「……痛そうだ。どうか、私に隠さないでください。」
私は黙ってうなずいた。

その夜、夫は珍しく執拗に私を求めた。
……と言うと、何だかすごく長く激しいHのようだが、そうではなくて……まるで赤ちゃんがママに甘えているようだった。

「お身体おつらいでしょうし、そろそろ寝たほうがいいんじゃないですか?」
何度かそう促したけれど、夫がまるでむずかってる子供のように、いつまでもぐずっていた。
私のほうが何度も寝落ちしたけれど、その都度起こされたような気がする。

「夏子さん……」
耳元で囁くように名前を呼ばれ続けた。

たぶん夫は、事故のショック、職場での叱責、慣れない車の運転によるストレス、さらには母親のヒステリーで、精神的につらかったのだろう。
私の存在が夫を癒してあげられるのなら……と、睡魔と戦った。



翌朝は、明らかに寝不足でつらかった。
「今夜は早く眠りましょうね。お気をつけて。」
気持ち悪くて朝食も喉を通らず……しっかり食事を平らげた夫を羨ましく感じて見送った。
さ、私も出発!

ドライブは快適で、気分よく運転できた。
日射しは暑いのに、秋の空に、爽やかな風。
来週は体育祭、一ヶ月後には文化祭もあるし……忙しくなりそう。
個人的には代休日に観劇予定を入れているのが、すごーく楽しみ。
テンションの高いまま、学校に到着した。

10時過ぎに、夫からの着信があった。

……どう考えても既に就業中のはず。

ゆるい私の職場環境と違って、夫がこんな時間に電話なんかしてこれるわけがないのだが……。
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