カフェ・ブレイク
終業後、大型ショッピングモールに足を延ばして、足りないものや食材を買い足した。
テレビやパソコンがなくてもかまわないけれど、洗濯機や冷蔵庫はやはり必要だろう。
明日の夜には配送してもらうようにお願いして、帰宅した。

夕食は、いつも以上にたっぷりの野菜を入れたスープを作った。
鰯を炊いたのと、小松菜のおひたし。
……夫がいたら、さらにお肉料理が必要だろうけど。


22時頃、夫から着信があった。
『夏子さん。ちゃんと話しましょう。これから参ります。』
これから?
中沢先生、もうすぐ来られるんじゃない?
……さすがにまずいかも……変に誤解されるとめんどくさくなりそう。

「今日は遠慮してください。同僚が来てくれることになってますので。」
『同僚?男ですか!?』
珍しく夫の声に険が含まれた。

……一瞬、女だと嘘をつこうかな、と思った。
でも、やましいことはないのだからという開き直りで、私はキッパリ言った。
「男性教諭です。でも、栄一さんが心配されることは一切ありません。単に布団を持って来てくださるだけです。」

『布団!?夏子さんっ!!!』
バンッ!!……と、大きな音をたてて、玄関のドアが開いた。

え?

驚いて見ると、スマホを耳にあてたまま、真っ赤な顔をしてわなわなと震えている夫が立っていた。

「……どうしてココが……」
「GPSで夕べのうちに場所は特定できていました。こちらの建物で昨日まで空き部屋だったのはココだけと聞きました。」

GPS!?
あ、スマホ?

「ひどい。勝手に、私の行動を見張ってたんですか?」
私が責めるのを無視して、夫は私を抱きしめた。
「お願いですから、帰りましょう。私には夏子さんが必要なんです。」

「い~や~!放してくださいっ!」
じたばたともがいて夫から逃れようとしたけれど、さすがに後方勤務とはいえ現役自衛官をふりほどけるはずもなかった。

「……これは……助けたほうがいいのか、出直したほうがいいのか……どっちがいいでしょう?」
タイミングいいのか悪いのか、中沢先生の声が廊下に響いた。

慌てて夫は私から離れて、中沢先生に頭を下げて……そのまますり抜けるように、出て行った。
……え?帰るの?
意味わかんない……。

呆然としてると、中沢先生が申し訳なさそうに言った。
「ごめん。これ真綿でけっこう重いんだ。中に下ろさせてくれない?」

「あ!はい!すみません!ありがとうございます!」
慌てて中沢先生を中に招き入れた。
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