カフェ・ブレイク
Noir comme le diable,
Chaud comme l'enfer,
Pur comme un ange,
Doux comme l'amour
「……読めません。」
しゅんとしたなっちゃんに、そりゃそうだよ、とほほ笑んで見せた。
「日本語では、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘く……って素敵な言葉ですよね。ちゃんとそんな味、してますか?」
なっちゃんは何度もコクコクッとうなずいた。
「タレーランって、かっこいいですよね~。私、ナポレオンより好きです。」
なっちゃんの言葉に少し驚いたけれど、曖昧に相づちを打った。
「いい香り。俺にも飲ませて~な。」
鼻をヒクヒクさせて小門が来た。
「いいよ。1杯800円だけど。」
「高っ!いつもの倍!?」
……ふむ。
「や~めた。そういう反応する奴には、あげない。」
意地悪ではなく本気でそう言ったのだが、小門は両手を合わせて拝むようにお願いした。
「嘘!ごめん!マスターが儲けるつもりないことはわかっとーから!お願い、俺にもちょーだい。」
……確かに、俺にとって店は趣味の延長のようなもので、儲けるどころか改装の度に大きな負債ができる。
本当に美味しいコーヒーを入れることが俺の楽しみ、ということをよく知っている小門を拒み続ける理由もなかった。
「いいよ。でも、金額は忘れて忌憚のない感想を聞かせて。普通の人の感想が知りたいから。」
ゆっくり丁寧に静かに注いだ「タレーラン」を小門はやかましく飲んだ。
「熱っ!何でこんな熱ぅしよるん?いつも飲み頃やん。あ~、でもええ香りや。どれ。」
さすがに音をたてて飲むような下品なことはしなかったので、そこはホッとした。
「……薄い?いや、薄くはないか。なんやろ。旨いけど……。」
しばし考えながら1杯を飲みきって、小門は言った。
「おかわり!ってしたくなった。ビールで言うたら、ハートランド?スーパードライじゃなくて。」
「……じゃあ、いつものブレンドとどっちが好き?」
俺の質問に、小門は申し訳なさそうに言った。
「ごめん、俺はいつものほうが好きみたい。」
ほうっとため息が出た。
「よかった。それでいいんだ。コレはあくまでイレギュラー。レギュラーコーヒーは万人に愛される味を目指してるからな。」
小門もまた安堵のため息をついた。
「悪かったな。緊張させて。」
お詫びに、と、水出しコーヒーを3人分グラスに取った。
「私もいいんですか?」
恐縮するなっちゃんに、営業用スマイル。
「もちろんです。新メニューご協力、ありがとうございます。またよろしくお願いします、なっちゃん。」
ポッと、なっちゃんの頬が赤くなった。