カフェ・ブレイク
「わかりますか?」
「そうねえ。幸せな結婚してる幸せオーラは見えないわね。」

そんな風に玲子さんに言われて、私は少しためらったけれど、本当のことを伝えた。
「実は離婚しました。まだ一緒に住んでるけどただの同居状態です。」

「あらあらあら!」
玲子さんは、まるで子供が囃し立てるように、顔を輝かせて手を叩いた。

「喜んでます?」
まさか、ヒトの不幸は蜜の味ってわけでもないだろうに。

驚いてそう聞くと、玲子さんは悪びれもせずニコニコと言った。
「そりゃそうよ!なっちゃんが結婚する意味がわかんなかったもん。ねえ、神戸に帰ってらっしゃいよ。章(あきら)も、あいかわらず独身貴族でいいかげんな生活してるわよ。」

ドキン!と心臓が大きく脈動した。
「……章さんも、小門さんも、お元気ですか?」

「とってつけたように成之(なるゆき)のことなんか聞かなくていいわよ~。章ね~、なっちゃんがいなくなった後、淋しそうだったわよ。ほんま阿呆やわ。」

どう返事すればいいのか、わからない。
……私がずっと章さんのことを好きだったのはバレバレだったとして……結婚前のしばらくは身体の関係もあったということもご存じなのだろうか。

さすがに確認することもできないので、どうしても言葉を選んだ会話になってしまう。
歯がゆいな……。
結局ろくな話もできないまま、顧問の先生に呼ばれてしまった。
せっかく玲子さんが来てくださったのに、何だか尻切れトンボになってしまった。

「ごめんなさい。私、いっぱい玲子さんに聞いてほしい話があるのに……。」
別れ際にそう言うと、玲子さんは肩をすくめた。
「まあココじゃ無理よね。また改めて逢いましょ。てか、本気で帰ってらっしゃいよ。離婚したなら関東にいる理由ないじゃないの。」

再びそう言われて、私は泣きそうになってしまった。
「そうですね。3月末で契約も切れるので……とりあえず帰ってきます。」
思わずそう言ってしまった。

不思議と、一度そう言葉にしてしまうと、妙な覚悟ができた気がする。
……去年の段階では、関西の学校に採用されたら帰ろうと思っていた。
でも、例え試験がダメでも、帰ってこよう。
公立学校の代用教員を待つことになってもいい。

玲子さんや、章さんのいる神戸に帰るんだ!
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