One more kiss
「ウチは契約料等は一切いただきません」「レッスンもタダだし、部活感覚で通えば良い」「仕事が入れば、他のバイトで同時間働くよりもお金が稼げる」という言葉に私も親もいつしか懐柔されてしまい、『嫌ならいつでも辞めれば良いか』という軽い気持ちで何となくレッスンに通っているうちに、いつの間にやら同年代の女性向けのファッション雑誌で、専属モデルを務める事に決まっていた。


他にもちょこちょこと単発のお仕事をこなしていたので、事務所が言う通り、学生が稼ぐ賃金としては充分過ぎるほどいただいていたと思う。


何せそれで生活費と学費の一部が賄えてしまっていたくらいだから。


スルスルっとこの世界に入り込み、仕事も途切れる事なく与えられて、なかなか順調な新人時代であったと思う。


だから就職活動はせずに、そのままモデルとして生きて行く事を決めた。


ただ、私が初めて専属を務めたその雑誌「ステップ」は、10代半ばから20代前半がターゲットなので、その年代から外れたら卒業するのが慣例になっていた。


なので私も例に漏れず、大学卒業と同時に3年間の専属契約を終了させ、今度はそれより上の世代がターゲットとなる「Treasure」という雑誌に移ったのだけれど…。


その頃から早くも、私のモデル人生には暗雲が立ちこめ始めた。
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