One more kiss
もともとその雑誌はだいぶ前から売上が落ち込んで来ていて、ここ数年それが顕著に現れ、全く上昇する気配を見せなくなったので、来年の3月号をもって廃刊する事が決まってしまったのだ。


起死回生を図るべく、一応「ステップ」で常に読者人気投票トップ3に入っていた私が呼ばれた訳なのだけれど、結局何の貢献もできずに、そういった残念な結果になってしまった。


そして、その出版社が今度新しいファッション誌を創刊する事になり、大々的な宣伝も兼ねた専属モデルオーディションを開催する運びとなった。


ぜひとも挑戦するようにと事務所から指示され、エントリーシートを送り、とりあえず一次は無事通過して、そして今日に至る。


廃刊される雑誌の代わりに生まれるのだから、専属だったモデルをそのままそこで使ってくれても良いのにな、という思いも正直ある。


だけどこの業界、そんなに甘くはない。


当該出版社には、伝統ある雑誌を廃刊に追いやったメンバーの一人として記憶されてしまっているだろうし、むしろそのまま新創刊の雑誌にスライドしてもらうのは難しいだろう。


それさえも帳消しになるような、「彼女のせいではない。たまたまタイミングが悪かっただけ」と擁護してもらえるような、輝かしい経歴があるというのならまだしも、私はまだまだこれからの人間だったのだから。
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