One more kiss


「いらっしゃいませー」


一点の曇りもなく綺麗に磨き上げられたガラス戸を開いた瞬間、店内に居たスタッフさん達から一斉に声をかけられた。


「こんにちは。緒方さんに、ヘアスタイリングとメイクをお願いしていて…」

「ええ、存じ上げておりますよ。さ、こちらへどうぞ」


入口から一番近い、レジカウンター前に居た女性スタッフさんにそう声を掛けると、彼女は笑顔で返答しながら私を促すように右手を前に掲げて歩き出す。


私はその後に続いて、接客中である他のスタッフさん達に軽く会釈をしながら、店内を横切り、突き当たりにあるドアを抜けて、その先に伸びている通路を進んで行った。


「失礼します」

「あ、いらっしゃ~い麻耶ちゃん。待ってたわ!」


左手一番奥に位置する部屋の中に入ると、すでに鏡台前でスタンバイしていたマコトさんが、いつもながらの明るい笑顔で出迎えてくれた。


「それでは、お荷物お預かりいたしますね」

「あ、はい。ありがとうございます」


案内役をしてくれたスタッフさんにバッグや羽織っていたジャケットを脱いで託した後、鏡台前の椅子に腰を落とした。


すぐさまマコトさんが確認を入れる。


「えっと、来年春に創刊される雑誌のオーディションだったわよね?」

「はい」


鏡越しに視線を合わせ、軽く頷きながら返答した。
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