恋より先に愛を知る
10月の嵐
☆
ボーイッシュな服装に身を包み、
帽子を深くかぶって鏡を見つめる。
イヤホンをつけて音楽を音量MAXで流すと、
ゆっくりと玄関の扉を開けた。
ガチャンと音を立てて閉まる扉が、
開ける時の重さを無くしたように軽く感じる。
空を見上げると雲ひとつない青空が広がっていた。
私、望月あかねの1日はこうして始まるの。
『勝手にやってれば?』
メールで送られた言葉なのに、
人の声で耳の中に聞こえてくる。
私の最愛の人の、冷たい声で。
もう4日前のことなのに、ついさっきのことみたい。
4日前、別れた彼氏に
ヨリを戻したくてお願いしたのがそもそもの失敗だった。
そんなかっこ悪いこと、前の私なら絶対にしなかった。
だけど私は、良くも悪くも変わってしまったの。
星沢和輝と過ごした10ヶ月間の間に。
傷が痛み出して、ずっと消えない。
そんな傷から目を背けたくて、私は歌を歌うの。
その歌は、誰にも聞こえやしないけど。
何もない、でこぼこな道を静かに歩く。
音楽に合わせるように自然と足並みが速くなっていった。
家の近くの、古船橋にかかる階段の
15段目に腰をおろしてしばらく目を閉じる。
私はこの場所が好き。
この場所は、私が素直になれる場所。
そうして、どことなく
私自身を奮い立たせてくれる場所。
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