恋より先に愛を知る
小さな病院の入り口に足を踏み入れる。
中に入るとオルゴールの曲が流れていて、
大きなテレビの画面には
どこかの森林の静止画が映しだされていた。
相変わらずソファで待つ患者さんは今日も多い。
私は受付へ行って診察券を出すと
一番端っこにある椅子に座った。
本当に、ここに来るといつも気が滅入りそうになる。
リラックス出来るっていうけど、
私にとっては逆効果。
今にも叫び出したくなるくらい、
頭がおかしくなりそう。
ここにいる患者さんたちはよく、
こんなところで静かにいられるなぁって、いつも思う。
それは私が人のいる空間がダメになったから?
待つっていう我慢が足りないから?
それとも、そもそも元からおかしいから?
なんて考えていると待っている時間も忘れるくらい。
名前を呼ばれて奥の診察室へと通される。
中に入るといつもの見慣れた先生が
にこやかに私を出迎えた。
「こんにちは、望月さん」
【こんにちは】
「どうぞ、座ってください」
“どうぞ”なんて言われると
受験期の面接練習を思い出す。
こんなところでまで言われるなんて、笑えてきちゃう。
「さて、始めますか」
先生のそんな言葉は、
私にとって地獄の始まりでしかない。
だって、いい事なんて一つもないもの。
何かが変わるなんてこと、絶対にないんだもの。