恋より先に愛を知る
私から見た彼の印象は、
簡単に言えば音楽一筋の人。
そうして、こうと決めたら
頑固だけれどなかなかの気まぐれ者。
絶対こうする!って決めた時の言葉は強いけれど、
何日か経つとその言葉はどこへ行ったの?
って聞きたくなっちゃう。
私といた時も、これしようとか、ここに行こうとか、
そんなのはいつも夢で終わってしまうことが多かった。
そんな変わり者の彼が
唯一入れ込んでいるのが大学のサークル。
その学祭公演を、私は観に行きたかった。
ずっと、ずっと、
観に行くことを心に決めてた。
だってこの公演は特別なもの。
私と彼が出会った、
初めての場所だもの。
どうせ終わりになってしまうのなら、
せめて綺麗な思い出を。
私の一番好きな彼の姿を見て、
さよならをしたかったの。
「泣くなよ。悪かったって」
カイトが私の話を聞いてそう言った。
「でもそんなら尚更心配なんですけど」
私は顔をあげてカイトを見つめた。
そうしてまた、なぜ?と指を振る。
カイトは言いにくそうに前髪をかきあげて、
少し考え込むと口を開いた。
「そいつにもし会って、あからさまに
嫌な顔されたりとかさ、
迷惑がられると傷つくのはあかねだろ?
そんなんで立ち直れそうもないし」
そんなの私だって考えていないわけじゃない。
― 時間の無駄 ―
彼の言った言葉がまた頭の奥に響く。
イライするって言った。
時間の無駄だって言った。
そんな人がいきなり現れたら?
カイトの言う反応がきてもおかしくはないじゃない。
そんなことは知ってるのよ。
だけど私は、
それが怖くて諦めるなんてことしたくないの。
彼にとってはどうでもいいことだったとしても、
私にとってはこの先一生忘れることのない、
覆ることのない特別な時間だもの。