恋より先に愛を知る
【傷ついても、何があっても、
行くことに意味があるわ】
「じゃあせめて親には言っていけよ」
【許してくれるわけないもの。
それは出来ない】
「なんで」
【だってあの人が私に‟支えられない“って言ったこと、
親は知ってるから】
その一言は私にとっても、
お父さんやお母さんにとっても
大きな、重すぎる言葉だった。
「なるほどね。そういうことか」
カイトは1人で納得すると、
一つ息をついて私の目を見た。
「じゃあ、行け。ただし気をつけてな。それと・・・」
カイトは私の手をとった。
振り払おうとすればいつもはすぐに離すんだけど、
きゅっときつく、だけど優しく握ると、
カイトはぽつりとつぶやいた。
「後悔だけはすんな。自分で決めたんだろ?
後悔を残してここに帰ってくるな」
その目は真剣で、そうしてどこか苦しそう。
カイトは顔を曇らせて続けた。
「お前にとってはしつこいだけの
ガキに見えるかもしんねぇけどさ。
俺は心配なんだよ。
なんでお前が傷つかなきゃいけねえんだよ。
そんなやつやめろよ。
んな男のために泣くんじゃねえよ。
俺なら絶対、泣かせねえのに・・・」
初めて見たカイトの反応に、
私は戸惑を隠せずに、ただじっとカイトを見つめていた。
しばらく私の手をぎゅっと握っていたカイトの手がふっと緩んだ。
カイトが顔を上げると、その顔はいつもの明るいカイトの顔。
「よし。帰るか」
私の手を引いて歩きだすカイト。
私が掴まれた手を眺めていると、
カイトはぱっと手を放した。
「悪い!触んねえ、がルールだったわ」
ははっと笑って私の前をゆっくりと歩く
カイトの背に向かって、
私は上がることのない声を上げた。
“カイト、ありがとう”
いつかの時みたいに、カイトに聞こえることはなくて、
カイトはひたすら静かに歩き続けた。