恋より先に愛を知る



2人の足は自然とあの海に向かっていて、
黙って砂浜に立ちつくした。


私はノートを取り出してペンを走らせると、
カイトの腕をつん、とつついた。


「ん?」


【今更なんだけど、カイトの字ってどう書くの?】


「字?って漢字?ああ・・・」


カイトはしゃがみ込むと、指を砂浜に走らせた。



―久遠海斗―



「読める?」


私が頷くと、海斗はふっと笑って立ちあがった。


「海の男、海斗。な?俺、海が似合うだろ?
 夏になるとモテんだぜ?」


【見栄っ張り】


「ガチだかんな!?お前、来年の夏見てろよ?
 絶対女の子両手にしてっからね?」



あまりの必死さに思わず笑うと、
海斗はそれを見て小さく笑った。


「笑ったな。そっちのがいいわ。もうお前ずっと笑っとけ」



【それ気持ち悪いじゃん。変な人だよ。
 一人知りあいにそんな人知ってるけど】


「はあ?んなやついんの?お前の知り合い怖えなあ」


【変な人ならいっぱい揃ってるよ。まあ私も変だけどね】


不思議。


この海にくると自然と何気ない会話で盛り上がる。


話し相手が男とか女とか、そんなの関係なくなるくらい。


やっぱり海斗は海の子だね。


深いところに踏み込んでは、知らん顔して引いていく。


まるでこの波のようで。


不思議となんのしがらみもなくなっていくの。


しばらく海斗と一緒に砂浜で落書きをして、
夕日が傾き始めた頃に海岸を出た。


やっぱり海斗は送るってきかなくて、
私の横を一定の距離を保って歩いた。




家の近くに来ると、いつもの階段に人影が見えた。


誰だろう・・・。


だんだん距離が近くなって、私ははっと息をのんだ。


もしかして、あれはもしかして・・・。


(じっちゃん!!)


私はその人影の主に走り寄った。


海斗がびっくりしたような声をあげて私の後を追ってきた。


「おお、あんたか!」


その人はやっぱりじっちゃんで、
私を見ると嬉しそうににっこりと笑った。


「おい、あかね。
 急に走んなよな・・・って・・・え?」



振り返ると海斗が息を荒げて、
そして私の後ろに驚いた視線を向けていた。


「じいちゃん!?何やってんだよ、こんなとこで」


え?



じいちゃん??




じいちゃん!?







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