恋より先に愛を知る
あれから海斗とはちょこちょこっと会うくらいで、
じっちゃんとも普段通り会話を続けていた。
海斗は相変わらず元気で、
「なあ、あの日じいちゃんと何喋ったんだ?」
ってしきりに聞いてくる。
だけど海斗の過去を知ったことはじっちゃんとの秘密。
いつか自分から話してくるまでは、
待っていてほしいと言われたから。
待つよ。
私なんかには話さないかもしれないけど、
それまで聞かなかったことにする。
今日もいつものように男っぽい服で私は町へと出かけて行った。
向かう先は、いつもの駅。
今日は決行の日だもの。
新幹線の切符を買いに駅構内へと入ると、
窓口にいた駅員さんへとノートを手渡した。
駅員さんは最初、
顔をしかめてノートと私を交互に見た。
何か珍しいものをみるかのように
渋々手続きに入ると、スムーズに切符を発行する。
それを受け取って頭を下げると、
私は急いでその場を後にした。
やっぱり変だよね。
喋れないっていうのは不便だ。
早く何か言わなきゃって思うのに
タイムロスがありすぎて相手をイライラさせてしまう。
少し悲しい気分に下がってしまったけれど、
私はその切符を空にかざしてみた。
太陽の光がキラキラ光っていて、
悴んだ手が小さく震えるのが見えた。
これで、行けるんだ。
私はやっと、約束を守りに行けるんだ。
ドキドキして、
嬉しくて、
大好きな音楽を聴きながら家へと帰った。
・・・そんな私を待っていたのは、
急降下をするジェットコースター。
私の一縷の希望は、一瞬にして崩れ去った。