恋より先に愛を知る
お父さんは静かにその場に腰を下ろした。
私と目線が同じ高さに合うと、
そのプレッシャーはさらに重くのしかかる。
怖いけど、私はこの壁を乗りこえなくちゃ、
東京までは行けない。
負けないで、怯むことなく乗りこえなくちゃ。
「彼に会いに行くのはだめだぞ」
違う。彼に会いに行くんじゃない。
そんなんじゃないのよ。私のこの決心は。
「別れてるならもういいじゃないか」
そういうことじゃないのよ。
私の中で終わりにするには、
どうしても観に行かなくちゃいけないのよ。
「来てくれって言われたわけでもないのに」
そうよ。
もう来てくれなんて言わない。
だけどこれは私と彼の約束。
お父さんは知らないの?
約束って、果たすまではずっと残るのよ。
私は何度も、
今までに何度も守れない約束を突きつけられてきた。
ずっと消えずに残るのがどんなに辛いか、
わからないの?
「わざわざ傷つきに行くなんて時間の無駄だろ」
無駄なんかじゃない。
無駄になんかなるわけないじゃない。
これで傷ついたのなら、自分のせい。
そんなの覚悟の上なのよ。
「娘を傷つける男のところへ
黙って行かせる親がどこにいる」
全部黙って受け止めようと思った。
強行突破で行こうと思った。
だけど、無理だった。
彼のことを悪く言われては、
黙っているわけにはいかなかったんだもん。